11月6日の日本民話
暗闇の黒ウシ
埼玉県の民話
むかしむかし、二人の絵かきが旅に出ました。
ある日の事、二人は宿屋で、江戸からきたという男の人と一緒になりました。
三人で話しているうちに、男の人が言いました。
「ところで、お前さんたちのお仕事はなんですか?」
すると一人の絵かきが、胸を張って言いました。
「わしは絵かきじゃ。めずらしい国を旅しながら、絵をかいている」
すると、もう一人の絵かきも、
「わしも絵かきじゃ。二人で旅をしながら、美しい景色(けしき)を絵にかいている」
それを聞くと、男の人はくやしくなり、
「それはぐうぜん。実はわたしも絵かきでしてな。江戸では少しばかり有名ですぞ」
と、うそをつきました。
「そんなら、ひとつ三人で絵のかき比べをしよう」
と、いうことになりました。
(さて、これは弱った)
絵のまるでかけない男の人は、こまってしまいましたが、いまさらうそだとはいえません。
そこで時間かせぎに、
「それじゃ、そちらからかいてもらいましょう」
と、言いました。
そこで最初の絵かきが、お母さんが小さい子どもにご飯を食べさせている絵をかきました。
なかなかに、上手です。
でも男の人は、わざとつまらなそうに言いました。
「お母さんが口を閉じているのはおかしい。子どもにご飯を食べさせるときは、親も一緒に口を開けるもんです。まだまだですな。それじゃ次の方」
もう一人の絵かきは、木こりが木を切っている絵をかきました。
これも、なかなかに上手です。
(さすがに絵かきだ。二人ともうまいもんだ)
男の人は心の中で感心しましたが、でも、やっぱりつまらなそうに、
「これだけ木を切っているのに、木のくずがないのはおかしい。まだまだですな」
と、言いました。
けちを付けられた二人の絵かきは、おもしろくありません。
「それじゃ、あなたの腕前を見せてもらいましょう。それだけ言うのですから、さぞかしお上手なんでしょうな」
「よろしい」
男の人は筆(ふで)にたっぷり墨(すみ)をつけると、紙をまっ黒にぬりつぶしてしまいました。
二人の絵かきさんは、ビックリしてたずねました。
「・・・いったい、これはなんの絵ですか?」
すると男の人は、すました顔で、
「これは、まっ暗やみから、黒ウシが出てきたところです」
と、いったのです。
おしまい
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