11月28日の日本民話
お雪の伊勢参り
大阪府の民話
むかしむかし、大阪のある村の大きな家で手伝いをしている、お雪という十二歳の女の子がいました。
ある日の事、お雪は急にお伊勢参りを思いたち、夜明け前に旅の支度をして家を抜け出しました。
この頃、お伊勢参りは子どもがだまっていっても、許されていたそうです。
村をしばらくいくと、くり毛の馬を引いて歩いている男の人に会いました。
「娘さんや、これからお伊勢参りにいくんだね。ではこの馬に乗りなさい。わしが案内してやろう」
「・・・・・・」
お雪は、無理矢理にお金をとられるのかなと、びくびくしましたが、そうではありませんでした。
それどころか反対に、
「まだお若いのに、お伊勢参りとは感心な子だ」
と、おこづかいまでくれたのです。
お雪は一日中、まわりの景色を眺めながら馬の背にゆられていました。
次の日、無事に伊勢について神宮へのお参りをすますことが出来たお雪は、とてもすがすがしい気持ちになり、おじいさんからもらったおこづかいで、おみやげを買いました。
そしてまた、おじいさんの馬に乗って、村に続く川の渡し場までもどってきたのです。
お雪は馬からおりると、親切な男の人に深々と頭を下げました。
「いろいろと、お世話になりました。本当にありがとうございました。わたしの親は、となり村にすんでおります。よろしければ、これから一緒にいってください。父母からもお礼を申させたいと存じます」
そういって、また頭を下げました。
渡しの舟が出るのを待っていた人たちは、それを見てびっくりです。
「おいおい。あの娘、さっきから大きな声でひとり言をいって、ぺこぺこ頭を下げておるぞ」
そういう声が聞こえて、お雪は、はっとしました。
気が付くと、親切な男の人も、くり毛の馬も消えていたのです。
「だれもおらんのに。なにを寝ぼけておるのじゃ?」
近くの人にそう言われてお雪は、自分はお伊勢参りをして、たったいま、この渡し場までもどってきたことを話しました。
「本当です。これがおみやげです。わたしは男の人の引く馬にゆられて、お伊勢参りをしてきたのです」
けれども、そんな男の人や馬を見た者は、だれもいません。
小さな娘が背中や両手にたくさんのみやげものを持って、つかれた足どりで渡し場へやってくるのを見ていただけです。
「そんな。たしかに男の人と馬に・・・」
これは、小さいながらもお伊勢参りに行くと決心したお雪に感心したテングが、人間に化けて道中を見守ったのだと言われています。
おしまい
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