12月3日の日本民話
サルと槍つかい
奈良県の民話
むかしむかし、柳生但馬守宗厳(やぎゅうたじまのかみむなよし)という、剣術の大先生がいました。
宗厳(むなよし)は、生まれ故郷(こきょう)の奈良県にある柳生(やぎゅう)の里にこもって、一心に剣術の研究にはげんでいました。
そのころ宗厳は、二匹のサルをかっていました。
サルたちに剣術の相手をさせて、すばやい身のこなし方などを学んでいたのです。
サルの方も、毎日のように相手をさせられているうちに、すっかり上手になり、若い弟子などではかなわないほどの刀の腕前(うでまえ)を身につけていたのです。
ある日の事、長い槍(ヤリ)をかついだ浪人(ろうにん)がやってきて、宗厳の弟子になりたいと願いでました。
自分はヤリの名手(めいしゅ)だという浪人に、宗厳は、
「それなら、まずはわしのサルどもを、その竹槍(たけやり)でついてみよ」
と、いいました。
浪人は、あきれたような表情をして、
「サルを相手にせよとは、あまりの事ですが、柳生の大先生がいわれるなら、いたしかたない」
と、肩にかついできた槍を置くと、わきに立てかけてある竹槍を手にしました。
庭先につれてこられたサルは、剣術の胴着(どうぎ)と面(めん)をつけてもらうと、小さな竹刀(しない)を持って浪人と立ちあいました。
「では、はじめ!」
サルは浪人がつきだす長い竹槍を、ひょいひょいと上手にかわしました。
そして竹槍の下をすばやくくぐると、みごとに一本、竹刀で浪人のからだをうちつけたのです。
「これは不覚(ふかく)。サルになんぞ一本とられるとは、何かの間違い。もう一つ」
宗厳は、もう一匹のサルを立ちあわせましたが、こんども同じように浪人は負けてしまったのです。
「どうだ、もう一つやってみるか?」
「・・・いえ」
宗厳の言葉に、浪人は、はずかしそうに帰っていきました。
しかし浪人は、それから本気になってきびしいけいこをつみ、一月半ほどしてから、また柳生の里にやってきました。
そしてもう一度、サルに立ちあわせてほしいと願い出たのです。
宗厳はしばらくだまって浪人をみつめると、静かにいいました。
「そのほう、いろいろ工夫をこらしてけいこをつんできたと見える。今度はサルもかなうまい。まあいい、まずサルと見合ってみよ」
宗厳はサルに胴着をつけさせて、浪人と見合いをさせました。
両者はたがいの目をみつめ、にらみあっていましたが、浪人の真剣な目におそれをなしたのか、サルはきゅうにはげしい鳴き声をあげると、そのまま逃げだしてしまいました。
それを見て宗厳は、浪人を新しい弟子の一人に加えることにしたという事です。
おしまい
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