12月14日の日本民話
夜叉(やしゃ)が池
福井県の民話
むかしむかし、加賀(かが→石川県)のお殿さまの家来が湯尾峠(ゆのおとうげ)をこえて、今庄(いまじょう)のそばまでやってくると、道に大きな大蛇が横たわっていました。
人々は怖がって、大蛇をまたいで先に進む者はだれもいません。
でも加賀のお侍は大切な用事を言いつかっていたので、迷うことなく大蛇をまたぐと、急ぎ足で遠ざかっていきました。
そして用事をすませて再びこの地にさしかかると、先ほど大蛇がいた所に美しい女の人が立っていて、侍に頭を下げるといいました。
「わたしは夜叉(やしゃ)が池に住む大蛇です。あなたの勇気に感心いたしました。ついては、そのあなたにお願いがあるのです。実は池の中にもう一匹の大蛇がいて、わたしにけんかを売ってくるのです。わたしたちはいつも蝶に化けて池の上にまいあがり、争っていますので、青い腹のわたしではなく、赤い腹の相手の方を矢で射殺してほしいのです」
それを聞いた侍は、
「引き受けてもよいが、ただし、少しばかり弓の練習をしてからにしたい」
と、答えました。
それから侍は十分にけいこを重ねて納得がいくと、約束通り夜叉が池へと出かけてました。
池のふちに立ってしばらく待っていると、池の中から突然二匹の大蛇がもつれあいながら姿を見せたかと思うと、赤と青の腹を見せる蝶になって、ますます激しく争っています。
「これは・・・」
あまりにも二匹の蝶の動きが早いので、どちらが赤い腹の蝶かわかりません。
「しかし、このまま引き下がっては武士の名折れ」
侍は意を決すると、赤い腹をした蝶がどちらかわからないまま矢を放ちました。
すると天の助けか、矢は見事に赤い腹の蝶に命中しました。
赤い大蛇が死んだのを確認すると、青い大蛇は美しい女の人の姿で出てきて、
「ありがとうございます。おかげさまで、憎い相手をやっつける事が出来ました。お礼に、この片袖をさしあげます。このそでは振るといつでもお金が出てくる宝の振袖です。ただし、あなた以外の人、たとえそれが身内の者でも、決してこの袖を見せたりしないようにして下さい」
と、言うと、自分の着ている着物の片袖を引き破って侍に手渡しました。
侍はその振袖を家に持って帰り、人の目にふれない所をと考えて、タンスの奥深くにかくしました。
そして人の気配がしなくなった頃をみはからっては振袖を取り出して、必要な分のお金を出したのです。
ある日の事、侍が用事で出かけた留守に、おかみさんがタンスの整理を始めました。
一段づつていねいに片づけていき、いよいよ例の振袖でがかくされてあるひき出しに手をかけました。
そして、その中にとても美しい振袖があるのに気付くと、
「なぜこんな場所に振袖が? しかも、片袖だけ。・・・もしや!」
と、ある考えにいたったおかみさんは、怖い顔でその振袖をいろりの中につっこんで燃やしてしまいました。
さてしばらくして、侍が帰ってきました。
タンスの中にしまってある振袖を確かめようとしましたが、どこを探しても見あたりません。
そこで侍は、おかみさんを呼びつけて、
「このタンスの中のあった振袖を知らないか?」
と、たずねますと、おかみさんは、
「あなた! あなたは、わたしというものがありながら、よくもよくも」
と、とうとう泣き出してしまいました。
それでしかたなく、侍があの振袖のいわれを話して、無事にやきもちの方はおさまったのですが、金をうむ振袖はもうありません。
「うむ、無い袖は振れぬか」
うそかまことか、『無い袖は振れぬ』という言葉は、ここから始まったそうです。
おしまい
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