12月19日の日本民話
冗談のお願い
兵庫県の民話
むかしむかし、あるところに、仏さまを一生懸命に拝んでいるおばあさんがいました。
おばあさんは、毎日の様にお寺にお参りしては、
「ナムアミダブツ、ナムアミダブツ・・・」
と、拝んでいます。
そのうちにおばあさんはすっかり年を取ってしまったので、近頃は早く極楽(ごくらく→天国)からお迎えが来ないかと、そればかり考えていました。
「ナムアミダブツ、ナムアミダブツ。仏さま、わたしはもう年で、これ以上生きていても仕方がありません。どうぞ一日も早く、わたしをお迎えに来て下さい」
さて、それを聞いていた、お寺の小僧(こぞう)さんは、
(あんな事言ってるけど、本当に早く死にたいのかなあ? よし、一つ試してやろう)
と、思いました。
そこである日、小僧さんは仏壇(ぶつだん)の後ろに隠れて、おばあさんの来るのを待っていました。
やがておばあさんがやって来て、いつもの様に拝みます。
「ナムアミダブツ、ナムアミダブツ。どうぞ早く、わたしを楽にして下さい」
その途端、小僧さんが仏壇の後ろから言いました。
「よしよし、そんなに言うのなら、明日迎えに来てやろう。望み通り極楽へ行って、ゆっくりするがよい」
さあ、それを聞いたおばあさんはビックリです。
「いえ、いえいえ、わたしはまだ、生きていとうございます。お迎えに来るのは、うーんと、うーんと、先にして下さい」
おばあさんはたたみにおでこをこすりつける様に、何度も何度も頭を下げました。
「まだ死にたくないのなら、なぜそんな事を頼むのじゃ?」
「いえ、その、あれは、ほんの冗談(じょうだん)です。さっきのお願いは取り消しますから、どうぞ長生きさせて下さい」
おばあさんはそう言うと逃げる様にお寺を出て行き、大きくため息をつきました。
「やれやれ、この仏さまは、何と耳が良いのだろう。これじゃ、うかうかと、お参りも出来ないねえ」
それからおばあさんは、二度とお寺には来なかったそうです。
おしまい
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