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2008年 9月1日の新作昔話
ワシにさらわれた赤ちゃん
滋賀県の民話
むかしむかし、近江の国(おうみのくに→今の滋賀県)の、あるお百姓さんの家に、男の赤ちゃんが生まれました。
赤ちゃんが二歳になった、ある日のことです。
お母さんはくわ畑へ出かけて、眠っている赤ちゃんを木のかげに寝かせて置いて、仕事をしていました。
するとどこから現れたのか、一羽の大きなワシがそのくわ畑をめがけて舞い降りてきました。
とたんに、お母さんはくわの葉をつむのをやめて、
「ああっ!」
と、叫びながら、赤ちゃんのいる方へかけ出しました。
ところが大ワシの方がお母さんよりも早く赤ちゃんをさらうと、大きな羽ばたきをして、さっと空へ舞いあがりました。
大ワシが舞いあがるとき、
「わぁーん!」
と、赤ちゃんの泣き声が聞こえました。
「だれか来てえ! だれか助けてえ!」
お母さんは大声で叫びましたが、そのとき近くには、だれもいませんでした。
赤ちゃんは、大ワシにさらわれてしまったのです。
知らせを聞いた村人たちも大勢出て、お母さんと一緒に大ワシにさらわれた赤ちゃんを探しましたが、ついに見つかりませんでした。
「ああ、わたしの、わたしの赤ちゃん!」
お母さんは、泣いて悲しみました。
でも、泣いていても仕方がないので、お母さんは旅支度をすると、赤ちゃんを探す旅に出たのです。
毎日毎日、あちらこちらと、いなくなった赤ちゃんを探して歩きました。
さて、近江の国からずいぶんと離れた奈良のお寺に、義淵(ぎえん)という、えらいお坊さんがいました。
ある夕方、お坊さんがお寺のすぎの木の上のあたりで、子どもの泣き声がするのを聞きつけました。
不思議に思って木の上をながめると、ちょうど一羽の大ワシが、小さな子どもをすぎの木の枝の間に、ちょこんと乗せようとしているところでした。
「あっ、あぶない! 大ワシよ、木から子どもを落とすなよ」
お坊さんはお経をとなえながら、子どもの為に祈りました。
お坊さんの祈りが通じたのか、大ワシは子どもをしっかりと木の枝の間に乗せると、そのままどこかへ飛んでいってしまいました。
お坊さんは寺のみんなを呼んで、子どもを木の上から下ろさせました。
そしてそれから自分の子どものように可愛がって、立派に育てたのです。
大ワシにさらわれてきたその子どもは頭が良くて、大変勉強の出来る子でした。
それから、長い月日がすぎました。
大ワシにさらわれた子どものお母さんは、まだあきらめていません。
あいかわらず、子どもの行方を探し続けていました。
あるときお母さんは、奈良の東大寺に、子どもの頃に大ワシにさらわれて、いまはすぐれたお坊さんになっている人がいるという話を聞きました。
お母さんが胸をおどらせながら、そのお寺をたずねて行き、良弁上人(りょうべんしょうにん)とよばれるそのお坊さんに会ってみると、何とうれしい事に、大ワシにさらわれた自分の子どもだったのです。
なぜ子どもとわかったかと言うと、それは大ワシにさらわれたときに身に着けていた観音さまのお守り袋が、お母さんが赤ちゃんに持たせていた物と同じだったからです。
おしまい
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