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2008年 11月10日の新作昔話

白鳥の関

白鳥の関
和歌山県の民話

 むかしむかし、紀の関という関所があり、この関所に近い村に一人の若者が住んでいました。
 ひどく飽きっぽい男で、何をやってうまくいかず、村人に馬鹿にされていました。
 その若者がある日、羽に矢を刺されてもがいていた白鳥を助けてやると、空へ放してやったのです。
 そのとき白鳥は一声鳴いて、うれしそうに飛びたっていきました。
 その晩のこと、若者の夢の中で白鳥が現れて、
「昼間は危ないところを助けてくださり、ありがとうございました。お礼に、お前さまの願いをかなえてあげましょう」
と、いうので、
「それなら、きれいで、やさしい嫁を世話してほしい」
と、言いました。
 それから三日目、若者のところへ美しい嫁がやって来たのです。
 嫁さんは、とてもいい嫁さんで、畑仕事にも精を出して、若者を大切にしていましたが、若者の方は、そのころはやっていた鳥や獣の狩りに心を奪われるようになりました。
 とうとうある日のこと、若者は嫁さんにさんざん小言をいったあげく、空にむかって、
「白鳥よ、おらあ、この嫁にはあきあきしたで、いい嫁のかわりにだれにも負けん立派な弓矢をくれ」
と、さけびました。
 嫁さんはそれをきくと一晩中泣いていましたが、朝になると嫁さんの姿はなくて、そこには見事な弓矢が置いてあったのです。
 若者はそれをつかむと、大喜びで狩りに飛び出しました。
 しかし、もともと百姓ですから、慣れない弓と矢を振りまわしたところで、山鳥の一羽も射止められません。
 村人に馬鹿にされた若者は、くやしまぎれに弓と矢にむかって、
「弓矢はもういらん! おらのほしいのはお前や!」
と、叫びました。
 すると弓矢は美しい白鳥に姿を変えて、若者の手をするりと抜けると、夢中で追いかけてくる若者を残して、山峠のかなたへ消えていきました。
「まてー、まってくれー!」
 気がついたときには若者は、関所を駆け抜けようとして関守に呼びとめられていました。
「怪しい者では、ございません。このあたりの百姓でして」
と、恐る恐る関守の顔を見上げて、若者はあっと叫びました。
 その関守は女で、その目からみるみる涙をあふれ出しながら、
「どんなことがあっても、この関は通しません。お前ののぞみは、もうかなえられません」
と、いうではありませんか。
 その女関守の顔は、姿を消した嫁さんだったのです。
 そして涙に濡れた袖は、みるみるうちにまっ白な羽にかわり、それを見た若者は転げるように山をくだったそうです。
 このときから紀の関は、不死鳥の関とよばれるようになったのです。

おしまい

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