きょうの日本民話
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2008年 12月19日の新作昔話
畳石の一ぱい水
長野県の民話
むかしむかし、女神湖(めがみこ)の近くの道ばたに『かぎっ引き石』という大きな石がありました。
その石の上には、いつも一匹のカッパがちょこんと腰かけていて、道を通る人がいると、
「かぎっ引きしねえか?」
と、呼びとめるのです。
かぎっ引きというのは、お互いの小指をかぎみたいに曲げて、引っぱり合いをする力くらべです。
カッパはこのかぎっ引きが大好きで、誰かれかまわず誘ったのです。
そして長い旅をしてきた者は、たいていはたいくつしのぎに、この誘いにのったのです。
ところがカッパの力は大変なもので、小指をからめたとたんに負けてしまうのです。
そして負けてしまうと有り金を全部取られたり、肝を抜かれたりするのです。
このかぎっ引きカッパの噂は、山を越えた諏訪(すわ)の方にまで伝わり、この話を聞いた諏訪の殿さまが、
「旅の者を苦しめるとは悪い奴め、ひとつわしがこらしめてやろう」
と、さっそく馬を出しました。
さて、カッパは殿さまがやってくると待ってましたとばかりに、すぐに声をかけました。
「これは殿さま、ひとつ私とかぎっ引きをいたしませんか?」
それを聞いた殿さまは、ニタリと笑うと、
「よしよし、では始めよう」
と、いうが早いか、馬の上からカッパの腕をしっかりとつかんで、そのまま馬にムチをいれしました。
さすがのカッパも、力を出す前に馬に引きずられたのでは、手も足もでません。
「と、殿さま、ごかんべんを、私の、私の負けです」
カッパはあやまりましたが、殿さまは答えません。
「・・・・・・」
カッパは、泣きそうな声で叫びました。
「ど、どうかごかんべんを! もう二度と、悪いことはしませんで、馬を止めて下さい」
でも殿さまは、答えません。
「・・・・・・」
とうとうカッパは、大声で泣きながら叫びました。
「どうか、どうか、お願いでございます。おわびのしるしに、水をわき出してみせますので」
「・・・よし」
やっとのことで、殿さまは馬を止めました。
そこはちょうど、望月(もちづき)の畳石(たたみいし)というところでした。
「これ、カッパ。約束通り、もう二度と悪さするなよ」
許されたカッパは、両手をついて殿さまにあやまりました。
「はい。もう二度と悪さはしません。約束は守ります」
このときカッパの手もとから、みるみる清水がわき始めました。
やがてカッパはどこかへ消えましたが、清水は止まることなくわき出しました。
やがてこの水は『畳石の一ぱい水』と呼ばれて、それから長い間、旅行く人々ののどをうるおしたということです。
おしまい
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