きょうの新作昔話
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2009年 5月8日の新作昔話
山姥(やまんば)
中国の昔話
むかしむかし、中国の山奥の村に、おじいさんとおばあさんが住んでいました。
二人は家の裏に立派なブタ小屋を作って、ブタの親子を育てていました。
この村の山奥には、どんな物にでも姿を変える事が出来るという山姥が住んでいます。
ある日の事、山姥はブタ小屋のそばを通りかかって、丸々と太ったブタの親子を見つけました。
「なんとも、うまそうなブタだ」
山姥は大きな口から、よだれをたらしながら、血の様にまっ赤な目で、じっとブタを見つめました。
でも、ブタ小屋はとても頑丈で、簡単には入れません。
「ええーい。何かいい方法はないのか!? ・・・そうだ」
名案を思いついた山姥は、ブタ小屋の近くにつんであるほし草の山に火をつけました。
パチパチパチ。
火は、たちまちブタ小屋に燃え移りました。
裏山の畑にいた、おじいさんとおばあさんは、火事に気付いてびっくりです。
あわてて飛んで帰ると、夢中で火を消しました。
でもその時には、小屋の壁半分と、柵が燃えてしまった後でした。
そしてその日の夜から、おじいさんとおばあさんはブタ小屋の見張りを始めました。
「ばあさんや。毎晩、こんな番をしていては、やりきれんな」
「そうですね。あしたは大工さんに頼んで、直してもらいましょう」
「そうだな。トラや山姥に子ブタを食べられないうちにな」
この話を、山姥がそっと聞いていました。
(なるほど、大工に頼むつもりだな)
次の日、山姥は男の姿をして、おじいさんの家にやって来ました。
「やあ、おれは大工だよ。よかったら、ブタ小屋をただで直してやろうか?」
でも、おじいさんは大工を一目見て、
「年寄りなのにひげもない。おまけにその高い声。お前は女だろう!」
「ちっ!」
おじいさんに見やぶられた山姥は逃げ出すと、山に入って松葉を、ひげの様にあごに貼り付けました。
そして炭の粉を食べて、声もガラガラ声にしました。
「ゴホン、ゴホン。これで大丈夫だろう。だが、じいさんは怖いから、ばあさんをだましてやれ」
山姥がおばあさんを探すと、おばあさんは家のそばの谷川で洗濯をしていました。
山姥は山で取ってきた山ブドウをおばあさんに渡していいました。
「おばあさん。あまいブドウだよ。一つどうだい」
「おやまあ。すまないね」
「おばあさん。おれは男だよ。立派なあごひげもあるし、声もガラガラだろう。それにおれは、腕のいい大工だ。だから、ブタ小屋を直してあげよう。もちろん、お金なんていらないよ」
「へえー。そりゃ、ありがたいねえ」
おばあさんは喜んで、山姥を家に連れて行きました。
「じいさんや。この大工さんが、ただでブタ小屋を直してくれるんだと」
しかしおじいさんは、大工をじろりと見て、
「お前さんのひげは、どうしてそんなに青いんだい?」
と、いいました。
「それは、その。・・・じ、じつは、ゆうべ酔っ払ってね。着物を青く染める染物おけに、あごひげを突っ込んだんだ」
「ふーん、そうかい」
おじいさんは、また、大工をじろりと見て、
「仕事をしてくれるというのに、どうして、金を取らないんだ?」
「それは、その。・・・お、おれは、もともと気のいい男でね。人を助けるのが大好きなのさ」
すると、そばにいたばあさんが、
「これ、じいさんや。こんな親切な大工さんに、わざわざ文句をつけることはないだろう」
「まあ、それはそうだが」
そこでおじいさんは、あやしく思いながらも、大工に仕事を頼むことにしました。
山姥の大工は、釘やのこぎりを使って、意外にもブタ小屋をきれいに直しました。
「ほれ、出来ました。これなら、トラだろうが山姥だろうが、ブタを盗むことは出来ませんよ」
山姥の大工が行ってしまうと、おばあさんは喜んで言いました。
「これで、毎晩ねむいのをがまんして、見張りをしなくてもすみますねえ」
ところが次の朝になると、子ブタが一匹減っているのです。
おじいさんとおばあさんはブタ小屋を調べてみましたが、別に変わったところはありません。
「おかしいな?」
「おかしいわね?」
それからというもの、毎晩、子ブタが一匹ずついなくなりました。
おじいさんは、思いました。
「これはきっと、あの大工の仕業にちがいない」
ある晩の事、ブタ小屋の方から『ガタン!』と音がしました。
目を覚ましたおじいさんが急いで戸のすきまからのぞいてみると、この間の大工らしい人影が子ブタをかかえて、ブタ小屋から出て来ました。
そして人影は、そのまま山の中へ逃げて行きました。
「ばあさんや。子ブタを盗むのは、あの大工だぞ!」
それを聞いたおばあさんは、
「きぃーっ、くやしい。だまされた」
と、涙を流してくやしがりました。
次の朝、二人がブタ小屋を調べてみると、ブタ小屋の壁に、秘密の隠し扉が作ってありました。
山姥は、ここから出入りしていたのです。
その日の夜になると、おじいさんとおばあさんは鉄のくま手を持って、隠し扉のそばに立ちました。
そして、山姥が来るのをじっと待っていました。
ま夜中になると、大工の姿をした山姥が、そーっとブタ小屋に近づいて来ました。
そして隠し扉を開いて、中に入ろうとしたとたん、待ち構えていたおじいさんとおばあさんが、
「えいっ! この山姥め!」
「やっ! よくもだましたね」
と、鉄のくま手を振り下ろしました。
「ぎゃっ! 助けておくれー!」
さんざんに痛めつけられた山姥は泣きながら逃げ出し、それから決して人前に姿を現さなかったということです。
おしまい
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