きょうの新作昔話
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2009年 6月24日の新作昔話
雨の夜のかさ
豊臣秀吉の子どもの頃の話
むかし、農民から天下人へと大出世した豊臣秀吉が、まだ子どもの頃のお話です。
ある夏の夜、蜂須賀小六(はちすかころく)という侍が家来を連れて、岡崎の、ある橋の上を通りかかると、むしろをかぶって寝ている子どもがいました。
「邪魔だっ!」
小六が槍の先で、はねのけようとすると、子どもはパッと飛び起きて、
「人が気持ちよく寝ているのに、何をするんだ!」
と、槍の柄をつかんで、小六をにらみつけました。
その子どもはサルのような顔をしていますが、なかなかに根性がありそうです。
「ほう。いい目をしておる。おれは蜂須賀小六だ。お前の名は?」
「おれは、日吉丸(ひよしまる)」
小六はこの日吉丸という少年を気に入って、自分の屋敷に連れて帰ると、
「サル、サル」
と、呼んで、家の雑用をさせました。
日吉丸はとても利口で、どんな事を命じても大人よりもうまく仕事をこなします。
すっかり感心した小六は、ある日、日吉丸に言いました。
「お前は、素晴らしく頭の良いやつだ。だが、この床の間にある刀は取れまい」
小六が自慢の刀を指差すと、日吉丸はニッコリ笑って答えました。
「取れます」
「本当に、取れるか」
「はい」
「いつまでに?」
「三日のうちに」
「よし。取れたら、この刀をお前にやろう」
さて、それから二日たちましたが、日吉丸は、やってきません。
三日目の夜、曇っていた空から雨が降り出しました。
小六が床の間の刀を見張りながら本を読んでいると、窓の外で、パラパラと雨をうけるかさの音がしました。
「サルのやつ、とうとうやってきたな」
小六は油断なく刀を見張りながら、窓の外の音に耳をすましていました。
それから何時間もたちましたが、かさを打つ雨の音は、まだ続いています。
(サルめ、いつまでそうしているつもりだ?)
イライラした小六は、窓際へ行くと障子を開けました。
「サル、そこにいるのはわかっているぞ。・・・おや?」
そこには、石灯籠にかさがくくりつけてあるだけで、日吉丸の姿はどこにもありません。
「しまった! やつの作戦か!」
小六は急いで座敷に戻りましたが、そこにはすでに日吉丸が立っていて、床の間の刀を持ってにっこり笑っています。
日吉丸は、小六が庭に気をとられているすきに、反対側のふすまを開けて、部屋に入ってきたのです。
「うーむ、お前の勝ちだ。サル、約束通り、その刀はお前にやろう」
「はい、ありがとうございます」
こうして日吉丸は、頭の良さと器用さからどんどん出世していったのです。
おしまい
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