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2009年 10月16日の新作昔話
お馬鹿なお姫さま
アンデルセン童話 → アンデルセンについて
むかしむかし、小さくて貧しい国に、一人の王子さまがいました。
ある日、王子さまは大きな国の王さまのところへ、お姫さまをもらいに出かけました。
その時に王子さまは、素晴らしい二つの贈り物を用意しました。
一つは、王子さまのお父さんのお墓の上に咲いている、とても美しいバラの花でした。
この花は五年に一度、たった一輪だけ花をつける不思議なバラです。
もう一つは、とてもきれいな声で歌う、ナイチンゲールという鳥でした。
王子さまは二つの贈り物をきれいな箱に入れて、家来に届けさせました。
贈り物を受け取ったお姫さまは、大喜びで言いました。
「まあ、素敵な箱。あたし、子ネコが欲しいから、この贈り物から子ネコが出てきますように」
ところが箱を開けて中を見たお姫さまは、がっかりです。
「あたし、ただの花なんて欲しくないわ。それに鳥も欲しくない。あたし、こんなつまらない贈り物をくれる王子さまなんて、大嫌いよ!」
この話を家来から聞いた王子さまは、少しがっかりしましたが、でも王子さまはあきらめません。
ボロボロの服に着替えると、顔を泥で汚して王さまのところへ行きました。
「何でもします。ぼくを働かせてください」
「よろしい。では、ブタ飼いを頼もう」
ブタ飼いは身分の低い仕事だったので、王子さまはそまつな小屋で暮らさなければなりません。
けれど王子さまは、嫌な顔一つせずにブタの世話をしました。
そして仕事が終わると、小さなおなべを作りました。
おなべには小さな鈴がたくさん付いていて、お湯を沸かすとおなべは、
♪ぐつぐつぐつ
♪お湯が沸いたよ、ぐつぐつぐつ
♪おいしいお湯だよ、ぐつぐつぐつ
と、きれいな音をたてて歌いました。
おなべの歌は、お姫さまの耳にも届きました。
「あら、あの歌なら、あたしもピアノでひけるわ」
うれしくなったお姫さまは、付き人に命じました。
「お前、ブタ飼いの所へ行って、いま歌っている楽器を買ってきておくれ」
出かけた付き人は、戻って来ると言いました。
「ブタ飼いは、『お金の代わりに、お姫さまのキスを十回いただきます』と、言っておりますが」
「まあ! 何て失礼なブタ飼いでしょう!」
お姫さまが怒っていると、また、おなべの歌が聞こえてきました。
♪ぐつぐつぐつ
♪お湯が沸いたよ、ぐつぐつぐつ
♪おいしいお湯だよ、ぐつぐつぐつ
お姫さまはそれを聞くと、どうしてもおなべが欲しくなりました。
そこで、付き人に言いました。
「わかったわ。みんなで、あたしのまわりに立って、あたしがブタ飼いとキスしている所を隠してちょうだい」
付き人たちは長いスカートを広げて、お姫さまとブタ飼い王子を隠しました。
二人はその中で、キスを十回しました。
歌うおなべを手に入れたお姫さまは、朝から晩まで、おなべの歌を聞いて楽しんでいました。
次にブタ飼い王子は、振ると思わず踊りたくなる、楽しい音のガラガラを作りました。
ブタ飼い王子は一日中、ガラガラをならしました。
♪がらがらがら
♪楽しく踊ろう、がらがらがら
♪みんなで踊ろう、がらがらがら
その音楽を聞きつけたお姫さまは、また付き人に命じました。
「ねえ、ブタ飼いの所へ行って、あの楽しい音のする楽器がいくらか聞いてきてよ」
出かけた付き人は、戻って来ると言いました。
「ブタ飼いは、『お金の代わりに、お姫さまのキスを百回いただきます』と、言っておりますが」
「まあ、あきれたわ。何てずうずうしいブタ飼いなの!」
お姫さまが怒っていると、また、ガラガラの楽しい音が聞こえてきました。
♪がらがらがら
♪楽しく踊ろう、がらがらがら
♪みんなで踊ろう、がらがらがら
お姫さまはそれを聞くと、どうしてもガラガラが欲しくなり、そこで付き人たちをまわりに立たせて、ブタ飼い王子とキスを百回しました。
ところが大変な事に、二人がキスをしているところを二階の窓から王さまが見ていたのです。
「何と言う事じゃ! 一国の姫ともあろうものが、身分の低いブタ飼いとキスをするとは!」
怒った王さまは、罰として二人を国の外に追い出してしまいました。
お姫さまは泣きながら、仕方なくブタ飼い王子のあとについていきました。
しばらく行くと雨が降ってきて、お姫さまはドレスも靴も、ぐっしょぬれの、あわれな姿になりました。
「ああ、あたしは、何てお馬鹿さんだったのかしら。もしもあの時、二つの贈り物をくれた、あの小さな国の王子さまと結婚していれば、こんな事にはならなかったのに」
それを聞いたブタ飼い王子は、汚いボロボロの服を脱ぎ捨てて、立派な王子の服に着替えました。
そして顔の泥も、きれいに洗い流しました。
それを見たお姫さまは、びっくりです。
「まあ、あなたは、あの王子さまだったのですね」
にっこり微笑んだお姫さまは、丁寧に王子さまにおじぎをすると手を差し伸べました。
ところが王子さまは、冷たくお姫さまの手を払いのけたのです。
「ぼくは、あなたが大嫌いです。バラの花の美しさも、鳥のきれいな声もわからず、そのくせ、おもちゃが欲しいからと、ブタ飼いとキスをするなんて」
王子さまはそう言って自分の国へ帰ると、追いかけてくるお姫さまに中に入れないように、お城の門を固く閉じてしまいました。
おしまい
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