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2009年 10月28日の新作昔話

リンゴの枝とタンポポ

リンゴの枝とタンポポ
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 春になり、野原も木も畑も牧場も、一面にきれいな花が咲いた頃、一本のリンゴの木が自慢げに言いました。
「えっへん。どうだい。ぼくは、こんなにきれいになったよ」
 このリンゴの木には、枝が一本しかありませんが、可愛らしいバラ色のつぼみをたくさんつけていました。
「まあ、きれい! なんて見事なリンゴの枝なのでしょう」
 ちょうどそこへ、馬車で通りかかった若い奥さまが言いました。
「わたくし、こんなに素晴らしい花を見た事がないわ」
 奥さまはリンゴの枝をやさしく折ると、大切にお屋敷に持って帰りました。
 始めて屋敷の中に入ったリンゴの枝は、大きな屋敷にびっくりです。
「うわ、なんて立派なお屋敷なんだろう」
 奥さまは広いお屋敷の中の一番素敵なお部屋に入っていくと、リンゴの枝に言いました。
「さあ、ここがあなたのお家よ」
 そして新雪を固めて作ったような白い花びんに、リンゴの枝をさしてくれました。
 リンゴの枝は、うれしくてたまりません。
「えへへ。ぼく、なんだか偉くなったみたいだ」
 そして、まっ白なカーテンのかかっている窓の外を見ました。
「やあ、外にはいろんな花が咲いているな」
 スミレ、ひなげし、チューリップ、そしてお庭の向こうの野原には、たくさんのタンポポが咲いています。
「でも、ぼくよりきれいな花はいないなあ、やっぱりぼくが一番だ」
 リンゴの枝はそう思うと、ますますうれしくなりました。
「ぼくみたいに大事にかざられる花もあれば、タンポポくんのように、だれにも見向きされない花もあるんだね。かわいそうに」
 それを聞いた空のお日さまが、リンゴの枝に言いました。
「リンゴくん、そんな事はないよ、よく、見ててごらん」
 ちょうどその時、小さな子どもたちが野原にやってきて、
「あっ、タンポポだ」
と、楽しそうにタンポポをつむと、首輪や腕輪をつくりました。
 それから、まっ白にわた毛をつけたタンポポを見つけると、
「あっ、いい物を見つけたよ。いい? よく見ててね。いくよー! フーーッ」
と、大きく息を吹いて遊びました。
 それを見たリンゴの枝は、子どもたちと仲良く遊ぶタンポポが少しうらやましくなりましたが、でも、お日さまに言いました。
「まあ、子どもたちには、タンポポがいいでしょうよ。でも、大人たちは、この私の方が」
 その時、奥さまが友だちと部屋に入ってきました。
「ゆっくり、ゆっくり。そうっとね」
 奥さまは、とても大事そうに何かを持ってきました。
 そして気をつけながら、リンゴの枝のとなりにさしたのは、なんとタンポポのわた毛の花たばだったのです。
「このわた毛、なんて不思議で、なんて素敵なんでしょう。リンゴの花とはちがうけれど、どっちもとってもきれいだわ」
 奥さまの言葉に、お日さまはにっこり笑っていいました。
「ほらね、リンゴくん、わかっただろう?」
「・・・うん」
 リンゴの枝は、恥ずかしそうに小さくうなずきました。

おしまい

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