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2009年 11月9日の新作昔話

恩知らず

恩知らず
京都府の民話

 むかしむかし、ある村に大雪が降りました。
 買い物で町へ出かけていた男は、村に帰る途中のこの大雪で、道に迷ってしまいました。
「困ったな。完全に迷ってしまったぞ。しかし、この雪の中にとどまっても、凍え死ぬだけだ。とにかく歩かないと」
 男が仕方なく吹雪の中を歩いていると、ふと目の前に、大きな影が現れたのです。
「くっ、熊だ!」
 男は逃げようとしましたが、深い雪に足を取られて、逃げるに逃げられません。
「もう駄目だ!」
 男は死を覚悟して目を閉じましたが、熊は襲ってこようとはせずに、後ろ足でむっくり立ち上がると、前足を器用に動かして、
(こっちへ、こい。こっちへ、こい)
と、手招きをしているのです。
「もしかして、おれをさそっているのか?」
 熊が襲ってくる様子はなく、このまま吹雪の中を立っていても仕方がないので、男は熊に誘われるまま、熊の後をついていきました。
 すると熊は大木に開いている大きな穴の中に入っていき、穴の中から男に
(おいで、おいで)
と、手招きをしました。
「おれを巣穴で、食べるつもりだろうか?」
 男は迷いましたが、ここまで来たなら乗りかかった舟だと、恐る恐る熊の巣穴へと入っていきました。
 熊の巣穴は意外に広く、そして暖かでした。
 熊はすぐに眠ってしまい、襲ってくる様子はありません。
 そこで男は熊と添い寝をして寒さを防ぐと、熊が巣穴に蓄えている木の実と雪を食べて飢えをしのぎました。
 そうして熊の巣穴で暮らすこと四日、長かった吹雪はすっかりやんで、男は巣穴を出ると無事に村へ帰る事が出来たのです。
 村では男が大雪で凍え死んでいると思っていたので、無事に帰ってきた男を見てびっくりです。
 そして男は自分が熊のおかげで助かったことを村人に告げると、仲間の猟師と共に、恩知らずにも助けてもらった熊を撃ち殺しに行ったのです。

 さて、帰ってきた男を見た熊は、うれしそうに立ち上がると男に、
(おいで、おいで)
と、手招きをしましたが、男が猟師を連れて来たことがわかると熊は急に怖い顔になって、男に襲いかかったのです。
 油断していた男は熊の攻撃を避けることが出来ず、そのまま熊に身体を引き裂かれてしまいました。
 それを見て怖くなった猟師は鉄砲を撃つ事も出来ず、慌てて村へと逃げ帰りました。
 この話を聞いた村人は、
「たとえ相手が動物でも、恩知らずな事をすれば、あの男のようになる」
と、言い伝えたそうです。

おしまい

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