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2009年 11月30日の新作昔話

まだわからん

まだわからん
山口県の民話

 むかしむかし、何日も何日も、日照りの続いた年がありました。
「せっかく蕎麦(そば)をまいたばかりなのに、このままでは蕎麦が全滅してしまうぞ」
 お百姓はそう言いましたが、何日かたって孫が畑へ行ってみると、一日も雨が降っていないのに、蕎麦が青々と生えていたのです。
「じいちゃん! じいちゃん! 蕎麦が生えているぞ!」
 それを聞いたお百姓も、大喜びです。
「そうか、そうか。蕎麦は少々の日照りでも生えると言うが、今年の様なひどい日照り続きでも生えてきたか。だが、蕎麦の花が咲いて、蕎麦の実を実らせるまでは、安心は出来んぞ」
 するとそれから何日かたって孫が畑へ行ったら、蕎麦が大きくなって花を咲かせていたのです。
「じいちゃん! じいちゃん! 畑一面に蕎麦の花がまっ白に咲いているぞ。これで蕎麦が食えるな」
「うんや、まだまだ。ちゃんと実るまでは分からんて」
 それからまた何日かたって、再び畑へ行った孫が言いました。
「じいちゃん! じいちゃん! 蕎麦に、まっ黒い三角の実がいっぱい実っているぞ。これで間違いなしに、蕎麦は食えるな」
 しかしお百姓は、首を横に振って、
「いいや、物事は最後の最後までわからんぞ」
と、言うので、孫はお百姓をせかして言いました。
「それじゃあ、今から蕎麦刈りをしよう」
 そこで二人は蕎麦を刈って、刈った蕎麦を干して、それから家へ持って帰って、叩いて蕎麦の実を取り出しました。
「じいちゃん! じいちゃん! これでもう蕎麦が食べられるな」
 孫がそう言いましたが、お百姓はやはり首を横に振って、
「いいや、まだわからんぞ」
と、言うのです。
 そこで孫は蕎麦を臼にかけて粉をひいて、その粉に少しずつ水を入れてこねると、板状にして包丁で細長く切りました。
 そして熱々お湯で蒸して、いよいよ蕎麦の完成です。
 すると孫が、お百姓にニンマリと笑って、
「じいちゃん! じいちゃん! これでいよいよ蕎麦が食えるな。なんぼ、じいちゃんでも、ここまでくれば、『いいや、まだわからんぞ』とは、言わんだろう」
と、言いました。
 ところがお百姓さんは、また、
「いいや、まだわからんぞ。口に入るまではな」
と、言うのです。
 すると孫は、ケラケラと笑って、
「いくら何でも、そこまで心配する事は」
と、その蕎麦をそばつゆにもつけずに口の中にかきこもうとしましたが、
「あっ!」
と、孫はうっかり手を滑らせて、そばをざるごと目の前の囲炉裏の灰にぶちまけてしまったのです。
 するとお百姓さんは、
「それ見ろ、だからわしは、物事は最後の最後まで分からんと言っただろう」
と、笑いながら言って、はんべそをかく孫に、自分の分の蕎麦を食べさせてやったと言うことです。

おしまい

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