2010年 6月4日の新作昔話
佐々木小次郎のツバメ返し
福井県の昔話
日本には数多くの剣豪(けんごう)とよばれる剣術の達人がいますが、宮本武蔵と並んで人気の一位を争うのが、「ツバメ返し」で有名な佐々木小次郎です。
これは、その佐々木小次郎のお話しです。
今から四百年もむかし、越前の国(えちぜんのくに→福井県)の一乗谷(いちじょうだに)に城をかまえる、朝倉義景(あさくらよしかげ)という殿さまの家臣に、富田勢源(とみたせいげん)という、飛び抜けた剣術を持つ侍がいました。
勢源(せいげん)は、『中条流(なかじょうりゅう)』という剣法をあみ出して、その強さは北陸中(ほくりくじゅう)に知れ渡っていました。
その勢源が最も得意としていたのは、『小太刀(こだち)』という短い剣を使う剣法です。
ある日の事、勢源の元に、小次郎(こじろう)と名乗る子どもが弟子入りにやってきました。
「強くなりたいです。弟子にしてください」
一見すると小次郎はひ弱そうな子どもだったので、勢源は弟子入りを断りました。
ですが、
「お願いです。強くなりたいのです。弟子にしてください」
と、断っても断っても弟子入りをお願いするので、ついに根負けした勢源は、小次郎を道場の小間使いとして使うことにしました。
小間使いとして働くようになった小次郎は、少しでも時間を見つけると、とても熱心に修業をして、十六才になる頃には道場一の剣術使いになっていたのです。
それからは名も佐々木小次郎と改め、勢源がいない時は、勢源の代わりとして道場を任されるようにもなりました。
こうして願い通りに強くなった小次郎ですが、師匠の勢源には、まだまだ勝つ事が出来ません。
「一体どうすれば、師匠を抜く事が出来るのだ?」
悩んだ小次郎は、ふと、洗濯物を干す物干し竿を見て思いつきました。
「師匠には小太刀を教えてもらったが、同じ小太刀では師匠に一日の長があるため、抜く事は出来ない。しかし、刀を長くすれば」
こうして小次郎は小太刀を捨てて、長い刀を持つようになったのですが、簡単に使いこなせる物ではありません。
師匠の勢源からも、
「剣でもっとも重要な物は早さだ。その様に長い刀では、早く振る事は出来まい」
と、言われましたが、小次郎はあきらめません。
毎日毎日、長い刀で練習を重ね、ついには腰に差せないほどの長い刀を使いこなせるようになったのです。
ですが、まだ師匠には勝てません。
ある時、小次郎は近くの一乗滝(いちじょうだき)で流れる水を見ていました。
するとそこへツバメが飛んできて、空を切って一回転すると空へと舞い上がりました。
「飛んでいるツバメは、どんな剣の達人でも斬る事が出来ないと言うが、もしツバメを斬る事が出来れば、わたしは師匠を抜く事が出来るかもしれん」
こうして小次郎は、毎日滝へ出かけては、ツバメにいどみ続け、ついにツバメを斬りおとすと技をあみ出したのです。
そして、その技で師匠に勝つ事が出来た小次郎は、長い剣を使う剣法を『厳流(がんりゅう)』、ツバメを斬りおとした奥義(おうぎ)を『ツバメ返し』と名付け、さらに剣術を磨く為に、諸国へ武者修業に出かけたのです。
これは、宮本武蔵と戦う数年前の事です。
おしまい
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