2010年 8月20日の新作昔話
坊主斬り
広島県の民話
むかしむかし、広島県の東城町(とうじょうちょう)の粟田(あわた)にある大奥寺(おおおくでら)の坊さんが、竹林(ちくりん)の庄屋(しょうや)の名越家(なごしけ)に法事(ほうじ)に招かれて、大変なもてなしを受けました。
当時は大飢饉(だいききん)で、村人の多くが飢え死にしているというのに、大金持ちの名越家の蔵(くら)には、十分すぎるほどのたくわえがあったのです。
中でも大好物のそばが山盛り出された時には、坊さんは飛びあがらんばかりに喜んで、とにかく食べられるだけのそばをかき込んだのです。
あまり夢中で食べ続けたので、帰る頃には、あたりはすっかり暮れてしまいました。
坊さんは大きなお腹をさすりながら、満足げに竹林から粟田へ抜ける峠へとさしかかりますと、いきなりやせ細った二人の侍が目の前に立ちはだかりました。
そして侍は異様に光る目で、坊さんの大きなお腹を見すえると、
「法事の帰りらしいが、何やらたらふく食ってきたようだな」
と、話しかけました。
「ああ、うまいそばを、山ほど食ってきた」
「そうか、あるところにはあるものだな。・・・して、一つ聞くが、坊主の仕事は、人を助ける事だな」
「いかにも」
と、いう坊さんの返事を聞くなり、後ろへ回った侍の一人が、
「坊主、許せ!」
と、一声さけんで、坊さんを斬り殺してしまいました。
そしてもう一人の侍が坊さんの腹を斬り裂き、中から血だらけのそばをかき出しました。
それからそのそばを持って小川へ行くと、血を洗い流しながらものすごい勢いで食べ始めたのです。
それ以来この峠は「坊主斬り」と呼ばれたそうです。
おしまい
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