2010年 9月27日の新作昔話
ガンの恩返し
青森県の民話
むかしむかし、青森県の津軽半島にある十三湖(じゅうさんこ)という大きな湖の側に、一人のおじいさんが住んでいました。
ある冬の吹雪の夜、おじいさんの家の戸をトントンと叩く者がいたので、おじいさんが戸を開けてみると、そこには一人の娘が雪まみれで立っていたのです。
「おや? この寒い中をどうした? まあ、とにかく中に入れや」
おじいさんは娘を家の中に入れると、囲炉裏の火を大きくして娘を温めてやりました。
おじいさんが娘を見ると、娘は足から血を流しています。
「お前さん、足を痛めているのか」
「はい。うっかり、動物を捕まえる罠を踏んでしまいました」
「そうか、それは不運な事だ。とにかく足が治るまで、ここに泊まっていなされ」
「はい。ありがとうございます」
「ほれ、めしが出来たぞ。腹いっぱい食べろや」
おじいさんが魚汁を娘に差し出すと、娘はとてもおいしそうに食べました。
やがて体が温まった娘は、囲炉裏のそばで眠ってしまいました。
そして娘にふとんをかぶせてやろうと思ったおじいさんが、ふと娘を見ると、そこにいたのは娘ではなく、鳥のガンだったのです。
「そうか。足を怪我して仲間たちとはぐれてしまい、困った末に娘に化けてやってきたのか」
おじいさんはニッコリ微笑むと、怪我をした足に薬をつけてやりました。
それから吹雪は何日も続き、ようやく青空が見えたある日、娘はおじいさんに深々と頭を下げて言いました。
「おじいさん、長々とお世話になりました。おかげで足もすっかりよくなりました。もう旅をしても大丈夫ですから、そろそろおいとましようと思います」
「そうか、行くのか」
おじいさんがさみしそうな顔をすると、娘は悲しそうな顔で言いました。
「今まで秘密にしていましたが、実は私、鳥のガンです」
「ああ、知っとったよ」
「そうでしたか・・・。このご恩は忘れません」
娘はこういうとガンの姿になって、大空へと舞い上がりました。
そして、おじいさんの家の上を名残惜しそうに三回回って、北の方へと飛んでいきました。
それから春が過ぎて、夏が来て、秋になった頃。
十三湖に、またガンが飛んで来るようになりました。
おじいさんは、そのガンを見る度に、あの娘の事を思い出します。
そんなある日、一羽のガンが、列から離れておじいさんの方へと飛んできました。
そして口にくわえた包みを、おじいさんの目の前に落として言ったのです。
おじいさんがその包みを拾って開けてみると、中には砂金と小さな手紙が入っていました。
おじいさんが手紙を開けてみると、こう書いてありました。
《おじいさん。以前はありがとうございました。お身体を大切にしてください》
それを読んだおじいさんは目に涙をうかべると、
「お前も、元気でな」
と、言って、飛び去っていくガンをいつまでも見送ったのでした。
おしまい
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