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2011年 1月7日の新作昔話

錦絵から出てきた女の人

錦絵から出てきた女の人
青森県の民話

 むかしむかし、あるところに、貧乏なおばあさんと息子が住んでいました。
 息子はやさしいおばあさんに頼り切って、自分はその日に飲む酒代分しか働きません。
 そのおばあさんが、ぽっくり死んでしまったのです。
 息子はおばあさんに頼り切っていたので、自分では食事の用意も洗濯も掃除も何一つまともに出来ません。
 お嫁さんをもらおうと思っても、息子は貧乏なので誰もお嫁に来てくれません。
 息子は一人、不自由でさみしい生活を送っていました。

 ある日の事、息子は仕事に行った先の家の庭で、きれいな女の人をかいたにしき絵をひろいました。
 一人暮らしでさみしかった息子は、そのにしき絵を家の壁にはると、まるで生きている人間に話しかけるように、その日の出来事などをにしき絵の女の人に話して聞かせました。

 しばらくしたある日、息子が仕事を終えて家に帰ってくると、いつも汚い家の中がきれいに掃除されていました。
 それだけではなく、囲炉裏(いろり)にはちゃんと火がついていて、温かい食事の仕度も出来ているのです。
「はて? 誰がしてくれたんだろう?」
 息子は不思議に思いながらも食事を食べると、いつもの様に壁のにしき絵に語りかけました。
「お前は、いつ見てもきれいだな。
 今日な、誰がやったかは知らないが、家の中がきれいに掃除されていて、おまけにおいしい晩飯が用意されていたんだ。
 きれいな家でおいしい晩飯を食べると、まるでお前と夫婦になったような気分だな。
 こんな事が、毎日毎日続くといいな」
 息子はそう言って、満足そうに寝ました。

 それから次の日も、その次の日も、不思議な事に息子が仕事を終えて家に帰ってくると、家の中がきれいに掃除されていて、ご飯の仕度が出来ているのです。
(これは、どういう事だろう? まさか村の娘のだれかが、やってくれているのだろうか?)

 次の日、気になった息子は仕事に行くふりをして家を出ると、すぐに戻って家の二階に隠れました。

 お昼頃、息子がふと気がつくと、家の中にはいつの間にか一人の美しい女の人がいて、家の中を掃除したり、囲炉裏の鍋に湯をわかしたりしていたのです。
 びっくりした息子は、思わず二階から声をかけました。
「あの、あなたさまは、どこのどなたですか?」
「きゃあっ!」
 突然声をかけられてびっくりした女の人は、足を滑らせて火をたいている囲炉裏の上に倒れてしまいました。
「あっ、あぶねえ!」
 息子はあわてて二階から飛び降りましたが、女の人は囲炉裏の火に包まれたかと思うと、一瞬のうちに消えてしまいました。
「どういう事だ? それにあの女、どこかで見た顔だったが」
 息子が首を傾げて何げなく壁を見てみると、壁にはってあるにしき絵の女の人のところだけが、真っ白になっていたのです。
「これは! ・・・そうか、そうだったのか」
 なんとにしき絵にかかれた女の人が、お嫁のいない息子をふびんに思って絵から抜け出していたのでした。

 それから息子は何年も何年もにしき絵の女の人が現れるのを待ちましたが、にしき絵の女の人は二度と現れず、にしき絵は白いままでした。

おしまい

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