2011年 1月19日の新作昔話
涼み袋
高知県の民話
むかしむかし、一人の侍がお供を連れて、山道を歩いていました。
とても暑い日だったので、侍もお供も全身汗だくです。
「暑いな」
「はい、まったくです」
しばらく行くと、峠に一軒の店がありました。
その店の看板には、
《涼み袋あり》
と、書いています。
「ほほう。涼み袋とは、いかなる物であろうか?」
「さあ? とりあえず、寄ってみましょうか」
二人が店に入って行くと、小ざっぱりした身なりのおじいさんがニコニコしながら出迎えました。
「いらっしゃいませ。お暑い中、大変でしたでしょう」
お茶を差し出すおじいさんに、侍が尋ねました。
「これ、表の看板に《涼み袋あり》とあるが、その涼み袋とは、いかなる物だ?」
「はい、涼み袋とは冬場に山の冷たい風を詰め込んだ、不思議な袋でございます」
「ほほう。よくわからぬが、二袋ばかりもらおう」
「はい、ありがとうございます」
侍はおじいさんから紙袋を受け取ると、それをお供に持たせてふもとの宿に行きました。
その日は、夜になっても暑い日でした。
寝苦しさに目を覚ました侍は、お供を呼んで言いました。
「峠の店で買った《涼み袋》というやつ、国の土産に持って帰ろうと思っていたが、こうも暑くてはがまん出来ぬ。すまんが、一袋持って来てくれんか」
「はい。ただいま」
お供が涼み袋を一袋持ってきたので、侍はその袋の口を開けてみました。
すると袋の中から、とてもひんやりとした涼しい風が吹き出してきて、あっという間に部屋中を涼しくしてくれたのです。
「おおっ、これは良い物を買った」
涼み袋のおかげで、侍はぐっすり眠ることが出来ました。
さて、こちらはお供の部屋ですが、この部屋は風通しが悪くて侍の部屋以上に寝苦しい部屋でした。
お供はだらだらと汗をかきながら、一睡も出来ません。
「うーん、こうも暑くては、寝るどころではないぞ。
明日も朝早くから、長く歩かなくてはならんのに。
・・・よし、おらも一つ、涼み袋を使ってみようか。
少しだけなら、ばれないだろう」
こうしてお供は、残った涼み袋を少しだけ開けてみました。
するとたちまち涼しい風が吹き出して、お供の汗がすーっと引いていきます。
「これは気持ちがいい。よし、もう少しだけ」
こうしてお供は何度も何度も涼み袋を開けて、とうとう涼み袋の風を全部使ってしまったのです。
「さあ、困ったぞ。旦那さまがお目覚めになったら、きっともう一袋持って来いと言うにちがいない。どうしよう、どうしよう」
しばらく考えていたお供は名案を思いついたのか、空になった涼み袋にお尻を当てると、
♪ブーーーーーッ
と、袋の中におならを入れて、素早く袋の口を閉じました。
これで見た目には、まだ使っていないのと同じです。
さて、涼み袋の効果がなくなって来たのか、侍は蒸し暑さで目を覚ましました。
「うむ。どうやら、涼み袋の効き目がなくなったようだな。よし、もう一つ使うとするか」
侍は、お供に新しい涼み袋を持って来させると、涼しい風を楽しみに紙袋の口を開けました。
すると涼み袋からは涼しい風ではなく、ぷーんと臭い風が吹いてきたのです。
「げほっ、げほっ。・・・な、なんだ、この風は!」
侍が臭いにおいにむせていると、お供が涼しい顔で言いました。
「この暑さですからね。さすがの風も、腐ってしまったのでしょう」
「なるほど。こんな事なら、早く使っておればよかった」
おしまい
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