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2011年 2月4日の新作昔話

オオカミとウサギ

オオカミとウサギ
兵庫県の民話

 むかしむかし、ある野原に、ウサギの家がありました。
 このウサギの家には、お父さんとお母さんと三匹の子ウサギがいます。

 ある日の事、お腹を空かせたオオカミがやってきて、
 どんどん!
と、家の戸をたたきながら言いました。
「やい、早く戸を開けろ! 開けないと、家をたたきこわすぞ!」
「お母さん、どうしよう?」
 子ウサギたちは、お母さんにしがみつきました。
 するとお父さんが、
「お前たちはお母さんと一緒に、早く裏口から逃げなさい。オオカミは、わしが引き受けるから」
と、言って、お父さんはオオカミの前に姿を現しました。
「やい、オオカミ! こっちを見ろ!」
「おおっ、これはうまそうなウサギだ。よし、お前から食べてやるぞ」
「そうはいくか! わしを食べたかったら、捕まえてみろ!」
 こうして、オオカミとウサギの追いかけっこが始まりました。
 それを見て、子ウサギたちが言いました。
「このままじゃあ、お父さんが食べられてしまうよ」
「はやく、なんとかしないと」
「そうだ。みんなで助けよう。ぼくたちが、あちこちから飛び出すんだ」
 お母さんも、すぐに賛成しました。
「いいこと。誰かが捕まりそうになったら、別の一人が飛び出すのよ」
 子ウサギたちはお母さんを先頭に、オオカミとお父さんの後を追いかけました。

 お父さんは大きな木のまわりをぐるぐると回って逃げていますが、もうだいぶん疲れている様子です。
 そこへお母さんが、しげみから飛び出して言いました。
「オオカミさん、こっちよ」
 オオカミはそれを見ると、
「よし、お前が先だ!」
と、お母さんを追いかけました。
 そしてお母さんがつかまりそうになると、しげみにかくれていた一匹の子ウサギが、
「オオカミさん、こっちだよ」
と、オオカミの前に飛び出しました。
「よし、今度はお前だ!」
 オオカミは子ウサギを追いかけますが、ところが捕まりそうになると、また新しい子ウサギが飛び出してきます。
「オオカミさん、こっちだよ」
「オオカミさん、こっちよ」
「オオカミさん、こっちだ」
 あっちのウサギ、こっちのウサギ、そっちのウサギ、向こうのウサギと、オオカミは追いかけているうちに疲れてへとへとになってしまいました。
 そこへ一番元気のいい子ウサギが、わざとゆっくり飛び出しました。
「オオカミさん、ここだよ」
(よし、こいつは足がのろそうだ)
 オオカミは最後の力をふりしぼって、その子ウサギを追いかけました。
 子ウサギは古い井戸のところまで逃げると、その上をぴょんと飛び越えました。
「逃がすものか」
 それに続いてオオカミも井戸を飛び越えようとしましたが、すっかり疲れていたオオカミは足がもつれて井戸の中へ落ちてしまいました。
「たっ、助けてくれー! おれは泳げないんだー!」
 それを聞いたお父さんが、井戸の中のオオカミに言いました。
「助けてやってもいいが、二度とウサギを襲わないと約束するか?」
「ああ、約束する! だから助けてくれ!」
「本当だな?」
「本当だー!」
 そこでウサギの親子は、井戸からオオカミを助けてやりました。

 それからこのオオカミはウサギとの約束を守って、二度とウサギを襲わなかったそうです。

おしまい

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