2011年 2月9日の新作昔話
竹生島(ちくぶしま)と鯰(なまず)
滋賀県の民話
むかしむかし、琵琶湖(びわこ)の北部にある竹生島(ちくぶしま)の弁天さまは、美しい満月の晩になると琵琶湖の魚たちを集めて歌と踊りの会を開いていました。
弁天さまのかなでる琵琶の音に合わせて上手に歌ったり踊ったりした魚には、素晴らしいごほうびが出るのです。
さて、一番最初に現れたアユたちは、月明かりの中で銀色の姿をキラキラさせるだけで歌も踊りもしません。
アユは自分の姿がきれいなので、弁天さまはそれだけでごほうびをくれるだろうと思ったのです。
二番目に現れたフナたちは、久しぶりに仲間が集まったので、おしゃべりばかりしていました。
三番目のコイたちもパクパクさせているだけで、歌も踊りもちっとも上手ではありません。
がっかりした弁天さまは、琵琶をひくのをやめて言いました。
「誰か、もっと上手なものはおらぬのか?」
すると琵琶湖の底から、黒いものがゴソゴソと顔を出しました。
ナマズたちです。
ナマズたちは、弁天さまに言いました。
「あの、わしらにもやらせてください」
それを聞いて、ほかの魚たちは大笑いです。
「あはははは。あんなかっこうで、どうやって踊るんだい?」
「そうさ、口も大きすぎて、歌なんか歌えやしないよ」
けれど弁天さまはナマズたちにうなずくと、また琵琶を弾き始めました。
ナマズの大将が、はりきってみんなに言いました。
「さあ、みんな、弁天さまに、今まで練習してきた歌と踊りを見ていただこう」
「おーっ!」
ナマズたちは琵琶の音に合わせて、歌いながら踊り始めました。
♪ズンドコ ズンドコ
♪ズイズイ ズイ
♪ズンドコ ズンドコ
♪ズイズイ ズイ
歌も踊りも上手ではありませんが、見ているとなんだか楽しくなってきます。
弁天さまは、にこにこ笑って琵琶を弾きました。
そしてナマズの歌と踊りが終わると、弁天さまはナマズたちに言いました。
「お前たちの歌と踊りのおかげで、今日は本当に楽しい夜でした。ほうびは、お前たちにあげましょう」
弁天さまから今まで見たこともないごちそうや宝石をもらって、ナマズたちは大喜びです。
「よし、もっともっと練習して、今度も弁天さまにほめていただこう」
次の満月の夜、弁天さまが琵琶をかなでると、琵琶湖中のナマズたちが集まって歌いました。
♪ズンドコ ズンドコ
♪ズイズイ ズイ
♪ズンドコ ズンドコ
♪ズイズイ ズイ
それを聞いてご機嫌になった弁天さまは、ナマズたちと一緒にきれいな声で歌い始めました。
♪ズンドコ ズンドコ
♪ズイズイ ズイ
♪ズンドコ ズンドコ
♪ズイズイ ズイ
弁天さまが歌ったのは、この時が初めてだったそうです。
弁天さまが歌い出したとたん、月の光が湖の上まですーっと伸びてきて、その月の光の道を天の舞姫(まいひめ)たちが、キラキラと光る羽衣(はごろも)を輝かせながら降りてくるではありませんか。
天からは天の楽隊(がくたい)がやさしい音色をふりまき、月は湖をまぶしいくらいに明るく照らします。
楽しいうたげは、一晩中続きました。
この時から、竹生島(ちくぶしま)にはたくさんのナマズが住むようになり、弁天さまをお守りするようになったそうです。
おしまい
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