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2011年 3月4日の新作昔話

猫絵十兵衛

猫絵十兵衛
山形県の民話

 むかしむかし、あるところに、猫絵十兵衛(ねこえじゅうべえ)と呼ばれるアメ売りがいました。
 なぜ猫絵十兵衛と呼ばれているかと言うと、十兵衛は猫の絵を書くのがとても上手で、十兵衛の描いた猫の絵からは、夜になると猫の鳴き声が聞こえてくると言われているからです。

 ある日の事、十兵衛はアメを売りながら村々を歩いているうちに、見た事のない町へと迷い込みました。
 道の両側には立派な家々が建ち並んでいますが、どこにも人の気配がないのです。
(変だな。こんな昼間に、人がいないなんて・・・。おや?)
 十兵衛が歩いていると、前から人が現れました。
 それは、黒い着物を着たきれいな娘です。
 娘は上品に、
♪カランコロン
♪カランコロン
と、下駄(げた)を鳴らしてやって来ます。
 十兵衛は、娘に声をかけました。
「あの、もし。そこの娘さん」
「きゃっあ!」
 娘はびっくりして、猫のように大きな目をまん丸にしました。
「いや、驚かしてすみません。
 わたしはただの、アメ売りです。
 あの、ちょいと物を尋ねますが、ここには人が住んでいるのでしょうか? 先ほどから歩いていますが、そんな気配がありませんので」
 すると娘は、急にオイオイと泣き出しました。
「あの、娘さん? 何か気にさわりましたか?」
 娘は涙をふくと、十兵衛に言いました。
「いえ、すみません。
 実は少し前まで、ここにはたくさんの人が住んでいました。
 ですが、ある日大きなネズミが現れて、町の人を次から次へと食べていったのです。
 それでとうとう、生き残ったのはわたし一人になってしまいました。
 残ったわたしも、今日食われるか、明日食われるかと、毎日をおびえて暮らしていました。
 けれどそんな毎日にたえきれず、いっそ早く食われてしまおうと、わざと下駄をならして歩いていたのです。
 旅のお人、どうかお助けて下さい」
「そうか、話はよく分かった。
 ここに迷い込んだのも、何かの縁です。
 相手がネズミなら、こっちにも考えがあります。
 娘さん、ちょっとわたしに、紙と筆を貸してくだされ」
 そこで十兵衛は紙と筆を借りると、そこに強そうな猫を次々と描いていきました。
 とても上手な絵で、今にも紙から飛び出てきそうです。
「さて、あとはネズミが出るのを待つだけだ」

 やがて夜になると、どこからともなく馬ほどもある大きな大ネズミが現れました。
 大ネズミはにおいをかぎながら、二人が隠れている屋敷へと近づいて来ます。
「くんくん。人間のにおいがするぞ。それも二人だ」
 大ネズミは屋敷の中に入ってくると、二人のいる床の前へとやって来ました。
「人間め! ここにおったか!」
 大ネズミはまっ赤な目を光らせると、今にも飛びかかろうとしています。
 そこで十兵衛は、自分の描いた絵の猫に命令しました。
「猫たちよ! あのネズミをやっつけてしまえ!」
「ニャーン!」
 絵の猫は一声鳴くと絵の中から次々と飛び出してきて、大ネズミに飛びかかりました。
「ニャン、ニャン、ニャーン!」
 猫たちはゆうかんに戦いますが、やはり大ネズミは強くて、猫たちは次々と大ネズミに食べられてしまいます。
「娘さん、はやく次の紙を!」
 娘が紙を差し出すと、十兵衛は次から次へと猫の絵を描きました。
「出ろ出ろ。みんなであの大ネズミを、やっつけろ!」
 これにはさすがの大ネズミも疲れてしまい、そのうち猫に首を噛み切られて死んでしまいました。
 それを見た娘は、涙を流して十兵衛にお礼を言いました。
「ありがとうございました。おかげで、父母や町のみんなのかたきを討つことが出来ました」
 そして娘は、顔を桃色に赤らめると、
「身寄りのないわたしですが、どうぞ、お嫁にもらってください」
と、お願いしたのです。
 でも十兵衛が、
「いや、わたしには、可愛い妻も子もいます。ないのは、お金だけです」
と、言うと、娘は助けてくれたお礼にと、山のような小判で十兵衛のアメを全部買い取ってくれたのです。
 十兵衛はアメの代りに小判を入れると、重たくなったアメ箱を背負いました。
「おおっ、さすがに小判は、重いわ」
 その時、十兵衛は目を覚ましたのです。

「あれ、娘さんは? 小判は? ・・・ありゃ、夢か」
 アメ売りの途中で昼寝をしていた十兵衛の背中に、重いアメ箱がのしかかっていたという事です。

おしまい

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