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2011年 6月13日の新作昔話

あとかくしの雪

あとかくしの雪
弘法大師話

 むかしむかし、ある寒い年の十二月二十三日の事、小さな村に旅のお坊さんがやって来て、ひと晩泊めてくれる家を探していました。
 けれど、どの家に行っても、
「悪いが、他を探してください」
と、断るのでした。
 断られ続けたお坊さんは、最後に村で一番貧しい一人暮らしのおばあさんに頼みました。
 するとおばあさんは、
「食べ物どころか、うちにはいろりの火もありません。それでもよければ、どうぞお泊まりください」
と、お坊さんを家に入れてくれたのです。
 家に入ったお坊さんは、火の消えたいろりのそばに座ると、念仏を唱え始めました。
 その姿を見たおばあさんは、
(ああ、せっかくお坊さまが来てくださったのに。なんのおもてなしも出来ぬとは)
と、目に涙を浮かべると、そっと戸を開けて外に出ました。
「せめて、菜っ葉の一枚でも残っていれば」
 おばあさんは寒さに震えながら自分の小さな畑へ行きましたが、やはり菜っ葉一枚、残っていません。
 そこでおばあさんは、地主の畑へ行くと、
「すみません。いつか必ずお返ししますので、どうぞ今日だけは許してくだされ」
と、手を合わせると、干してある稲をほんの少し抜き取りました。
 それから、隣の大根畑へ行き、
「今日だけは、許してくだされ」
と、手を合わせると、小さな大根を一本抜き取りました。
 こうして稲と大根を手に入れたおばあさんが家に戻ると、お坊さんはまだ念仏を唱えています。
 おばあさんは稲と大根を置くと、今度は山へ枯れ枝を探しに行きました。
 寒い冬山をさんざん歩き回って、ようやく枯れ枝を見つけて家に帰ると、おばあさんは稲をうすでひいて団子を作りました。
 そして大根は小さくきざんで、なべに入れました。
 それからいろりに枯れ枝をくべて火をつけると、大根と団子を煮て団子汁を作りました。
 こうしておばあさんは、出来上がった団子汁を全ておわんに入れると、
「お坊さま。わたしはお腹が空いていないので、どうぞ全部召しあがってください」
と、団子汁の入ったおわんをお坊さんに差し出したのです。
 おばあさんが、ふと戸のすき間から外を見ると、地主の畑から隣の畑、そしておばあさんの家まで続く足跡が、雪の上にはっきりと残っていました。
 明日になれば、稲や大根を盗んだ事が見つかるでしょう。
 きっと、ひどくしかられるに違いありません。
 もしかすると、村を追い出されるかもしれません。
 しかしおばあさんは、おいしそうに団子汁を食べるお坊さんを見て、
(ああ、よかった。よかった)
と、心の底から思いました。

 次の日の朝、目を覚ましたおばあさんが外に出てみると、あたり一面に新しい雪が積もっていて、おばあさんの足跡はすっかり無くなっていたのです。
 そして今までの事を全て知っていたのか、お坊さんはおばあさんに微笑むと、やさしく言いました。
「あなたは、とても良い行いをしました。
 仏さまは、あなたのした事をお許しになるばかりか、これからは幸運を授けてくださるでしょう。
 では、どうぞ長生きしてください」
 そしてお坊さんは、再び旅へと出かけました。
 このお坊さんが言った通り、それからおばあさんには良い事ばかりが続き、幸せに暮らすことが出来ました。

 おばあさんは後から知ったのですが、おばあさんの家に来たお坊さんは、あの有名な弘法大師だったという事です。

おしまい

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