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2011年 7月13日の新作昔話

嫁礁

嫁礁
石川県の民話

 むかしむかし、能登半島の狼煙と言う所に、一人の漁師が住んでいました。
 漁師はどんなに海が荒れる時も必ず船を出して、毎日サバ釣りをしていました。
 そしてそのサバを売ったお金で、大好きなお嫁さんにおいしい物を食べさせてやるのです。

 ある日の事、今日は朝からひどい嵐だったので、お嫁さんが夫に言いました。
「ねえ、今日はひどい天気よ。こんな日ぐらい、仕事を休んではどう?」
 しかし漁師は、お嫁さんににっこり笑うと、
「大丈夫だよ。それにこんな天気ほど、大物が捕れるのさ」
と、言って、そのまま海に行ってしまいました。
 これも、お嫁さんにおいしい物を食べさせてやるためなのですが、でもお嫁さんは、
「もしかすると漁に行くというのは口実で、本当は他に好きな女が出来たのかも・・・」
と、夫を疑いだしたのです。
 そこでお嫁さんは、夫に言いました。
「それなら、わたしも一緒に連れて行って下さい」
 しかし夫は、首を振って言いました。
「海は危険だから、連れてはいけない」

 そこである日、お嫁さんは夫に内緒で、船に忍び込んだのです。
 お嫁さんが隠れているとは知らない夫は、いつもの場所に船をつけると釣りを始めました。
(なんだ、本当に釣りをしていたのね)
 そこで隠れていたお嫁さんが、ひょいと立ちあがって夫に声をかけました。
「あなた」
 ところが、お嫁さんがあまりにも急に出てきたので、夫はお嫁さんを海の化け物だと思い込んで、
「この化け物め!」
と、近くにあった包丁をお嫁さんに突き刺したのです。
「キャーーー!」
 お嫁さんは悲鳴を上げて、そのまま海に沈んでしまいました。
 自分が包丁で刺して殺したのが、自分が命よりも大切にしているお嫁さんだと気づいた夫は、
「わっ、わしは、かわいい嫁を殺してしもうた」
と、そのまま海に沈んだお嫁さんを追って自分も海に飛び込み、そのまま二度と浮かんでは来ませんでした。

 その時からこの場所は、『嫁礁(よめぐり)』と呼ばれいるそうです。

おしまい

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