2011年 7月22日の新作昔話
牛を洗ってやれ(座敷童)
むかしむかし、東北のある村に、何百年も続いている旧家がありました。
以前は何十人もの使用人がいましたが、今では落ちぶれて、家族が小さな畑を耕すだけです。
ある日の事、この家のおばあさんが畑で働いている家族にお弁当を持って行こうとすると、十歳ぐらいの子どもが現れて、
「ばば、腰が曲がっては、重い弁当を持って行くのは大変だろう。おらが、持って行ってやるよ」
と、弁当をかついで、畑に走って行ったのです。
「はて? いったい、どこのわらし(→子ども)だ?」
おばあさんが首をかしげていると、しばらくして畑に行っていた嫁が帰って来て言いました。
「ばばさま、見たことがないわらしが弁当を持ってきてくれたけど、中は竹の葉っぱばかりで空っぽよ」
と、言うのです。
「さては、あのわらしに弁当を盗られたな!」
おばあさんは仕方なく、もう一度弁当を作って嫁に持たせました。
次の日、嫁が牛を引いて歩いていると、どこからか子どもの声が聞こえてきました。
「下の川で、牛を洗ってやれ」
嫁は周りを見ましたが、誰もいません。
「おかしいな」
首をかしげた嫁が、そのまま歩いていくと、
「はやく、牛を洗ってやれ」
と、また声がしたのです。
周りにはやっぱり誰もいないので、嫁は再び首をかしげて歩き出しました。
するとどこからか、あの時の子どもが出てきて、
「おめえの家は、その牛のおかげで何とか続いているんだ。たまには、牛を洗ってやれ。そうしないと、家がつぶれるぞ」
と、言うのです。
そこで嫁はあわてて川へおりていって、牛を洗ってやりました。
家に帰った嫁がその事をおばあさんに話すと、おばあさんは思い出したように言いました。
「それはきっと、座敷わらしに違いねえ。
昨日、わしが見たわらしも、きっとそうだったんだ」
「座敷わらし?」
「ああ、座敷わらしは家を守ってくれる、とってもいい神さまだ。普段は姿を見せねえが、家が潰れそうになると姿を現すんだそうだ」
「それじゃ、この家があぶないってこと?」
「いいや、お前が言われた通りに牛を洗ってやったから、きっと大丈夫だろ」
その夜、おばあさんが寝ていると、突然、どすん! どすん! と、部屋中がゆれ始めました。
びっくりしたおばあさんが、頭から布団をかぶって震えていると、
「ばば、友だちが来たから、今夜は手枕で寝ろ」
と、耳元で声がしたのです。
そこでおばあさんは枕をはずして、手枕で寝ました。
そして布団のすきまからそっと覗いてみると、三人の座敷わらしが枕を取り合って遊んでいたのです。
「ああ、やっぱり座敷わらしだ。それも三人も。座敷わらしさま、これからも家を守ってくだされ」
おばあさんは座敷わらしに、手を合わせてお祈りをしました。
その後、家の人たちは座敷わらしをとても大切にしたので、家は少しずつ豊かになっていったそうです。
おしまい
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