2011年 9月23日の新作昔話
藺牟田池(いむたいけ)
鹿児島県薩摩郡の民話
鹿児島には火山の跡に水がたまって出来た、藺牟田池(いむたいけ)という池があります。
静かな湖面には、たくさん浮島があって、たくさんのカモがやって来るそうです。
このお話しは、この藺牟田池がまだ出来ていない頃のお話です。
むかしむかしの大むかし、ここには夫婦の神さまが暮らしていました。
二人はとても仲良しですが、二人には子どもがいないので、いつも寂しい思いをしていました。
そこで二人はこの辺に飛んで来るカモを飼ってみようと相談して、男の神さまがさっそく一羽のカモを手に入れました。
それから二人はカモを小さなかごに入れて、カモを自分たちの子どものように可愛がったのです。
最初はかごの中でびくびくしていたカモも、やがて二人になついて、かごから出しても必ず戻ってくるようになりました。
そんなある日の事、男の神さまが畑へ出かけて、女の神さまが家の仕事をしていると、カゴに入れていたカモがただならぬ声で鳴いたのです。
女の神さまがあわててカモの所へ行ってみると、どこからか現れた一人の神さまが、可愛いカモを奪って逃げて行ったのです。
「あなたー! わたしたちの大切なカモが連れて行かれたの! はやく戻ってきてー!」
女の神さまの叫びに畑へ出かけていた男の神さまはすぐに戻ってきましたが、その後いくら探してもカモを見つける事は出来ませんでした。
可愛がっていたカモがいなくなったさみしさから、女の神さまは病気になって死んでしまいました。
大切な妻とカモを失った男の神さまは、毎日滝の様な涙をあふれさせて泣きました。
その二人の流した悲しみの涙がどんどん集まって、今の藺牟田池(いむたいけ)になったそうです。
また、カモを盗んだ神さまは自分のした事を反省して、藺牟田池の方に向ってカモを放してやりました。
それでカモは今でも二人の神さまを探しに、この藺牟田池に飛んでくるそうです。
おしまい
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