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2011年 12月26日の新作昔話

ほら吹き男爵 チーズの島

ほら吹き男爵 チーズの島
ビュルガーの童話

 わがはいは、ミュンヒハウゼン男爵(だんしゃく)。
 みんなからは、『ほらふき男爵』とよばれておる。
 今日も、わがはいの冒険話を聞かせてやろう。

 ある時、わがはいは船で航海をしていて、ひどい大嵐に襲われた。
「大変だ! 船底に水が流れ込んできたぞ!」
「風で、船の帆が引き裂かれた!」
 たちまち船内は大混乱となったが、そこは数かずの航海で嵐にはなれっこになっているわがはい。
 木の葉のように大波にもまれる船の甲板に、しっかりと両足をふみしめて、
「これくらいの嵐がなんだ! それでも船乗りか! 落ち着いて船底をふさげ! 落ち着いて帆をたたむのだ!」
と、船員たちに的確な指図していたが、そのうちに帆柱が激しい突風にたえかねて、
 ドッシーン!
と、羅針盤の上に倒れてしまった。
「しまった!」
 バラバラに壊れた羅針盤を見て、さすがのわがはいも青くなった。
 羅針盤がなくなったら、方向がわからなくなってしまうのだ。

 まもなく嵐は静まったが、わがはいたちの船は、あてのない航海を続けなければならなかった。
 そして十日間も大海をさまよっているうちに、あたりの海の色が真っ白に変わってきた。
 しかも、何ともいえない甘い香りがただよってくる。
「くんくん。これはもしや」
 わがはいは、おそるおそる指先に海の水をつけて、ペロリとなめた。
 すると驚いた事に、この白い水はミルクだったではないか。
 しかも、舌のとろけそうな甘いやつだ。
「おーい、ミルクだ。ミルクだぞ」
 わがはいが叫ぶと、みんなは大喜びで船から体をのばして、ひさしぶりに甘いミルクをたっぷりと飲んだ。
 おかげでみんなは、すっかり元気を取り戻した。
「しかし、どうして海の水がミルクに? さては先日の嵐で、メス牛を積んだ船でも転覆したのかな?」
「いや、それならメス牛も流れているはず。転覆したのは、ミルクを積んだ船だろう」
「何を言っている。ミルクを積んだ船が一せきや二せき転覆したところで、海の水がミルクになるはずがない」
「じゃあ、何十せきものミルク船が転覆したんだろう」
 そんなくだらない議論をしているうちに、わがはいたちはやっと島の影を見つけてその島に上陸した。

 今日の教訓は、『大切な物は、真っ先に安全なところへ』だ。
 海の航海で何よりも大切なのは、方向を示す羅針盤だ。
 この羅針盤のおかげで、船乗りたちは長い航海が出来るようになったのだが、羅針盤がなければ今回の様に大海をさまよう事となる。
 きみたちも突然の地震や火事に備えて、大切な物を持ち出せるようにしておこう。

 さて、この冒険はまだまだ続くが、続きは次の機会に話してやろうな。

おしまい

 わがはいは、ミュンヒハウゼン男爵(だんしゃく)。
 みんなからは、『ほらふき男爵』とよばれておる。
 今日は、ミルクの海の続きを聞かせてやろう。

 ミルクの海を突き進んで島に上陸してみると、驚いた事にこの島は、全てがチーズで出来ていたのだ。
 生えている木にしろ、ころがっている石にしろ、住民の家にしろ、みんなチーズで出来ている。
 そう言えば、チーズはミルクから出来ている。
 この島のまわりがミルクの海だったのは、おそらくこのチーズの島から、ミルクが溶け出したためだろう。
「長旅にチーズのごちそうとは、うれしいな」
 わがはいたちは、さっそくチーズの木をかじり、チーズの石ころを食べた。
 さすがに家は遠慮したが、実は食べても問題はなかった。
 なぜならここのチーズは、いくら食べても一夜のうちに元通りになってしまうからだ。
「これでバンでもあったら、文句はないのだが。いくらなんでも、そこまでは都合良く」
 しかし探してみると、本当にパンがあった。
 この島には人の背丈よりも大きな麦が生えていて、その麦の穂の中に焼きたてのほかほかしたパンが入っていたのだ。
 この麦も、いくら食べても明日の朝には元通りになる便利な麦だった。
 チーズとパンとくれば、お次はブドウ酒だ。
「これで、ブドウ酒があればなあ」
と、一人の船員が言った。
「ぜいたくを言うな、いくらなんでもブドウ酒までは」
と、わがはいが、船員をたしなめたとたん、
「温泉があるぞ!」
と、船長が声をあげて、向こうを指さした。
 なるほど、向こうの岩かげから、ふわりふわりと湯けむりがあがっている。
 さっそく湯けむりを目指して行ってみると、なんとそこはココアの池で、子どもたちが楽しそうに泳いでいたのだ。
 どの子どもも、こげ茶色の体をしているが、きっとココアの色がしみついてしまったのだろう。
「このさい、ココアでもいい。われわれも入ろう」
 わがはいたちも、さっそく服を脱いで入ろうとしたら、
「大人は、向こうだよ」
と、子どもたちが教えてくれた。
 行ってみると、そこはブドウ酒の池だった。
「なんと、白も赤もロゼもあるではないか」
 わがはいは、さっき船員をたしなめた事を恥なければならなかった。
 話の展開からして、ブドウ酒も出てくるのは当然だからだ。
 それが、お約束というものだ。
 ともかく、わがはいたちはブドウ酒の池で、飲んだり、泳いだりと、大いに楽しんだ。
 もちろん、このブドウ酒も、いくら飲んでもへらなかった。
 まったく、ここは不思議なところである。

 今日の教訓は、『人をたしなめる時は、先の展開をよく考えてからにしよう』だ。
 何事にも、『お約束』というものがある。
 まさかと思っている事が、現実に起きたりするものだ。
 この『お約束』を知っておかないと、わがはいのように後で恥をかく事になる。

 さて、チーズの島の話はまだ続くが、続きは次の機会に話してやろうな。

おしまい

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