2011年 12月28日の新作昔話
ほら吹き男爵 一晩で元に戻る、牛の骨
ビュルガーの童話 → ビュルガーの童話について
わがはいは、ミュンヒハウゼン男爵(だんしゃく)。
みんなからは、『ほらふき男爵』とよばれておる。
今日は、チーズの島の続きをしてやろう。
不思議なチーズの島に着いたわがはいたちは、夕方になってキャンプのテントに帰ると、船のコックたちが、うまそうな焼き肉を大皿いっぱいに盛って待っていた。
「やあ、今夜はごうせいだね」
わがはいは思わず、よだれが出そうになった。
「ところでこの焼き肉は、畑にでもなっていたのかね」
この島なら、焼き肉の畑があっても不思議ではない。
しかしコックたちは笑って、
「まさか、いくらなんでもそこまでは。実は野原に牛が二頭いたので、しとめてきたのですよ」
と、得意そうに言った。
すると船長が、
「それは、とんでもない事をしてくれたな」
と、青い顔で言った。
「この島にあるものは、何でもだまって食べていいと思ったら大間違いだぞ。
さっき、ココアの池で遊んでいる子どもたちに聞いたが、あの牛たちは、この島の住民の乗り物だそうだ」
「えっ、そうでしたか。これは、大変な事をしてしまった」
コックたちの顔も、青くなった。
旅先で一番怖いのは、住民たちとのトラブルである。
住民たちを怒らしたら、我々はどうなるかわからない。
「船長、どうしましょう?」
「とにかく、すぐに謝りに行きたまえ。ここの住民は気さくな人たちばかりだから、こちらが誠意を込めて謝れば、罰金ぐらいで許してくれるだろう」
「・・・はい」
コックたちはしぶしぶ行ったが、間もなく、にこにこ顔で帰ってきた。
「どうだったね? 罰金を取られたかね?」
「とんでもない。
わたしたちが謝りに行ったら、かえってお礼を言われましたよ。
よくぞ牛を、食べてくれましたってね」
「まさか、そんな馬鹿な」
船長も、わがはいも、にわかには信じられなかった。
でも、よくよくわけを闘いてみると、この島では牛を食べてしまっても骨さえ残っていれば、チーズやパンやブドウ酒の様に一夜で元の牛に戻ってしまうそうだ。
しかも人に食べてもらえば、柔らかな新しい肉がつくし、体も前より大きくなるそうだ。
試しに次の朝、牧場に行ってみたら、なるほど、昨日骨になった牛たちが元の姿になって遊んでいた。
この島は、本当に不思議な島である。
さて、今回はたまたまうまくいったが、今日の教訓は、『悪い事をしたら、すぐに誠意を込めて謝ろう』だ。
『ばれないだろう』、『大した事はないだろう』と思って、悪い事を謝らずにいると、後でとんでもない事になるものだ。
悪い事をしない事が一番だが、人間誰でも、知らず知らずのうちに悪い事をしている事もある。
きみたちも悪い事をしてしまったら、すぐに謝るのだぞ。
チーズの島のお話しはこれで終わりなので、また次の機会に別の話をしてやろうな。
おしまい
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