2012年 1月20日の新作昔話
お腹に噛みついた豆
高知県の民話
むかしむかし、長兵衛という人が町で塩と豆とござと水車を買いました。
そして買った品をかごに入れて、てんびん棒でかついで行きました。
「うーん。買ったはいいが、重くてかなわんわい。どれ、一休みするか」
長兵衛は肩からてんびん棒をおろして、川のそばへ腰をかけました。
するとそこへ、ウサギとタヌキとサルとカワウソがやってきました。
長兵衛が買ってきた物を見たウサギが、仲間たちに言いました。
「わしがあの人間をだまして逃げるから、きみたちはその間に水車とかごを取ってくれ」
ウサギは長兵衛の前にぴょんと飛び出すと、わざと足を引きずって走りました。
(おっ、けがをしたウサギだ。あれなら、簡単に捕まえられるぞ)
長兵衛はてんびん棒を振り上げて、ウサギを追いかけました。
「それ、今のうちだ!」
タヌキとサルとカワウソは、残されたかごと水車を転がして逃げていきました。
やがて、長兵衛から逃げたウサギが帰ってきました。
「よしよし、大成功だな。
さあ、みんなに取った物を分けてあげよう。
カワウソくんは、カニを食うから塩だ。
塩をつけて食べると、おいしいぞ。
サルくんは、昼寝をするからござだ。
ござの上で寝ると、気持ちいいからな。
タヌキくんは、穴で寝るから水車だ。
戸口に置くとくるくる回って、おもしろいよ。
わしは・・・。
仕方ない、残り物の豆でがまんしておこう」
塩をもらったカワウソは、大喜びで川へ飛び込みました。
ところがカニを捕まえている間に、もらった塩はすっかり溶けてしまいました。
サルは岩にござをしいて寝ようとしたのですが、つるつる滑ってうまく眠れません。
そのうちに、つるん滑って、川へ落ちてしまいました。
タヌキは戸口に水車を置きましたが、水車が戸口をふさいで思うように出入りが出来ません。
「なんだ、なんだ。ウサギのやつ、うまい事を言って一番良い物を一人じめにしたな!」
カワウソもサルもタヌキも、カンカンに怒ってウサギのところへ行きました。
「やいやい。欲張りウサギめ! よくもわしらをだましたな! わしらにも豆をよこせ!」
すると、おいしそうに豆を食べていたウサギは、あわてて豆をお腹の上にはり付けて泣き出しました。
「わーん、いたい、いたいよー!」
みんなは、びっくりです。
「ウサギくん、どうしたんだ?」
するとウサギは、泣きながらお腹の豆を指差しました。
「わーん。
豆を食べようとしたら、豆がいきなりお腹に噛みついてきたんだ。
きみたちも豆に噛みつかれないうちに、早く逃げた方がいいよ。
ああーっ、いたい、いたいよー」
それを見て、カワウソもサルもタヌキもあわてて逃げて行きました。
おしまい