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2012年 6月1日の新作昔話

そこなしひしやくのこのこのざえもん

そこなしひしやくのこのこのざえもん
一休さんのとんち話 → 一休さんとは

 むかしむかし、一休さん(いっきゅうさん)と言う、とんちで評判の小僧さんがいました。
 その一休さんがお使いに出かけた留守に、村人が、ある家から言付けを頼まれてきました。
「今日は、そこなしひしゃくのこのこのざえもんさん家の法事ですので、お昼過ぎにお経をあげに来てください」
「はい、わかりました。ではお昼過ぎにうかがいますよ」
 和尚さんは簡単に引き受けましたが、村人が帰った後で、ふと頭をひねりました。
「はて、引き受けたはいいが、『そこなしひしゃくのこのこのざえもんさん』の家なんて、この寺の檀家(だんか)にはないはず。さては、何かの謎かけかな?」
 いくら考えても、どこの家の事か和尚さんには全くわかりません。
 ちょうどそこへ、一休さんが帰ってきました。
 頭の良い一休さんに聞けば、すぐに謎かけを解いてくれるかもしれませんが、いつもいつも一休さんに頼るのはしゃくだと、和尚さんは一人で考えこんでいました。
「うーん、あそこでもないし・・・。ああ、もうこんな時間か」
 まもなく、約束の法事が始まる時間です。
 遅れては大変なので、和尚さんは仕方なく一休さんに尋ねました。
「これ一休。実は、法事の約束があるのだが、『そこなしひしゃくのこのこのざえもん』の家が、わかるか?」
 すると一休さんは、にっこり笑って答えました。
「ええ、わかりますとも。では、ご案内します」
 和尚さんが一休さんについていくと、そこは檀家の「柄皮(えかわ)まござえもん」の家だったのです。
「一休、『そこなしひしゃくのこのこのざえもん』の家だぞ。ここではあるまい」
「いいえ、こちらです。そこなしひしゃくとは、柄と皮しかないひしゃくの事。子どもの子どもは孫(まご)ですから、このこのざえもんは、まござえもんさんの事です」
「なるほど、お前はあいかわらず、かしこいのう」
 和尚はまたまた、一休さんにはかないませんでした。

おしまい

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