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2012年 7月20日の新作昔話

かかしを倒した太郎坊

かかしを倒した太郎坊

 むかしむかし、ある山寺に、太郎坊(たろうぼう)と次郎坊(じろうぼう)という小坊主がいました。
 次郎坊はまじめに修行をしていましたが、太郎坊は昼寝をしているか、弓を持って山へ遊びに行くかのどちらかでした。
 山寺の和尚さんも、これにはほとほと困り果てて、ある日、太郎坊を呼ぶと、
「これまでがまんをしてきたが、これ以上、お前の様な荒くれ者を寺においておくわけにはいかん。これより先は侍にでもなって、好きな弓矢で化け物でも退治しろ」
と、きつく言い渡して、寺から追い出したのです。
 太郎坊の方も、これは幸いと喜んで、大好きな弓矢を手に、あてのない旅へ出かけたのです。
 さて、旅に出てから三日目の夜明け、太郎坊は不思議な村に着きました。
 とても大きくて立派な村なのですが、ここには人の気配が全くありません。
「どうしたんだ? みんなで隠れん坊でもしているのか?」
 不思議に思いながら歩いていると、酒屋の中から女の人の泣き声が聞こえてきました。
「おお、人がいたのか」
 太郎坊が戸を開けて中に入ると、可愛らしい女の子が泣いていたのです。
「どうした? なぜ泣いている? それに他の村人はどうした?」
  太郎坊がわけを尋ねると、女の子は涙をふきながら、
「実は、この村に化け物がやってきて、村中の人をさらっていったのです」
と、言うのです。
 しかも今夜は、この娘までさらっていくことになっていると言うので、
「そうか、なら、おれが何とかしてやろう」
と、 太郎坊はとりあえず、腹ごしらえににぎり飯をたらふく食べると、弓の練習をはじめました。
 太郎坊が弓の練習をしながら化け物が現われるのを待っていると、どこからか生臭い風が吹いてきて、天井裏から、臼(うす)の様に太い一本足が飛び出してきたのです。
 その瞬間、太郎坊の弓矢を放ち、それは見事に一本足へ命中しました。
 太郎坊は続いて、二の矢、三の矢を放ちましたが、天井裏の化け物は、
「やりおったな!」
と、うなるばかりで、いっこうにその姿を見せません。
「お前は誰だ! 顔を見せろ!」
 太郎坊がどなると、天井裏の化け物はがらがら声で、
「おらは、田んぼを守るかかしだ!」
と、言いながら、のっぺらぼうにすみで、《へ・の・へ・の・も・へ・じ》と書かれた顔をぬーっとつき出したのです。
 それは、確かに田んぼにいるかかしです。
 怖い化け物を想像していた太郎坊は、いささか拍子抜けしながらも、かかしの化け物に尋ねました。
「おい、かかし。田んぼを守るかかしが、なぜ人さらいをするのだ?」
 するとかかしの化け物は、怒りで声を震わせながら、
「わしらかかしが、風の吹く日も雨の日も心を込めて田を見守ったのに、この村の人間どもは感謝のひとかけらも持っておらん。それでこらしめるために、村の者を人質にしたんだ」
と、答えたのです。
「そうか、なるほど。それなら、これからはかかしを大事にあつかうと約束をしよう。それでいいか?」
「・・・よし、約束は守れよ」
 かかしの化け物はそう言うと、どこからか家ごとすっぽり入りそうな大きな袋を引きずってきて、その中に入っていた村人たちを袋から引っぱり出しました。
 こうして自由の身になった村人たちは、助けてくれた太郎坊にお礼を言って、自分の家へと帰って行きました。
 そして役目を終えた太郎坊が酒屋を出ていこうとすると、娘が太郎坊に、
「どうか、わたしをあなたさまの嫁にして下さい」
と、言うのです。
 その後、太郎坊は酒屋の娘と結婚して、幸せに暮らしたという事です。

おしまい

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