きょうの新作昔話
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2012年 8月10日の新作昔話

お菊の水

お菊の水

 むかしむかし、十兵衛(じゅうべえ)という名前の腕のいい狩人(かりゅうど)が、頭に十六本の角もつ、五郎沼(ごろうぬま)の大蛇を退治して有名になりました。
 そして得意になった十兵衛は、ある日、涙を流しながら手を合わせて命乞いをする、身ごもった母猿を射ち殺してしまったのです。
 そしてそのたたりから、十兵衛の女房は熊の手足と猿の顔をもつ赤ん坊を生み落としたのでした。
「人も猿も、命は同じく尊いもの。それを遊びで奪ってしまうとは」
 改心した十兵衛は猟師をやめると、毎日、神仏に許しをこい続けたのですが、それから三度も、化け物のような赤ん坊が生まれたのでした。
 でもようやく四度目にして、やっと人間の姿をした、それもとびっきり可愛い女の子が生まれたのでした。
「おおっ! ようやく我が罪が許されたぞ!」
 十兵衛夫婦は涙を流して喜ぶと、その子をとても可愛がって育てました。
 お菊と名づけられた女の子は、成長するにつれてますます美しくなり、年頃になる頃には大勢の若者から縁談を申し込まれたのです。
 でも、どうした事か、お菊はしだいにふさぎこみ、家に閉じこもるようになってしまいました。
 ある秋の日暮れ、仕事から帰った十兵衛は、
♪雨を降らせて行くべきか
♪風をふかせて行くべきか
と、悲しく歌うお菊の言葉を耳にしました。
「お菊よ、『雨を降らせて行くべきか、風をふかせて行くべきか』とは、どういう意味だ?」
 十兵衛が聞くと、お菊は部屋の中に逃げ込み、決して中をのぞかないようにと泣いて頼みました。
 けれども気が気でならない十兵衛は、こっそり部屋をのぞいてびっくりです。
 なんと中にいたのは、十六本の角を持つ大蛇だったのです。
 それは、むかし十兵衛が殺した、五郎沼の大蛇です。
 十兵衛の子どもに生まれ変わって、前世に殺されたうらみをはらそうとしたのですが、お菊は父母の愛を一身に受けて育つうち、前世に殺されたうらみは消えていたのです。
「もう、前世のうらみはありませんが、この姿を見られたからには、一緒に暮らすことが出来ません」
 そう言うとお菊は父母に、なめると飢えをしのげると言う、不思議な珠を残して家を去りましたが、去ったお菊は人間に姿を見られた罰として、北上川(きたかみがわ)で雷神(らいじん)に八つ裂きにされてしまいました。
 そしてその時におこった大洪水で多くの人が死にましたが、お菊の父母は娘が残してくれた飢えをしのぐ不思議な珠をなめて、何とか生きながらえたそうです。

おしまい

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