2012年 10月1日の新作昔話
字の書き方
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むかしむかし、貧乏でしたが努力をして大金持ちになった男がいました。
大金持ちになった男は、何でも欲しい物が手に入りますが、いくらお金を出しても解決しない悩みがありました。
それは、字が読めない事です。
「手紙が来ても読めないとは、何てなさけない。しかし、この年になって勉強をしても、今さら覚えることは出来ないだろう」
そこで大金持ちは、せめて子どもには字を覚えさせようと、都から立派な先生を呼び寄せると、勉強の家庭教師にしたのです。
「先生、どうかよろしくお願いします」
「よろしい。わたしにお任せください」
一日目、先生は息子に『一』の字を教えました。
二日目、先生は息子に『二』の字を教えました。
三日目、先生が息子に『三』の字を教えると、息子は父親のところへ行って言いました。
「お父さん、ぼくは、もう字を覚えてしまったよ。最初は難しかったけれど、コツを覚えれば簡単だ。もう、先生に教えてもらわなくても大丈夫だよ」
それを聞いた大金持ちは、大喜びです。
「そうかそうか。さすがは我が子。それなら先生には、お帰り願おう」
大金持ちは先生にお礼をたっぷりして、都に帰ってもらいました。
さて、それからしばらくしたある日、大金持ちは万さんという人を家に招待する事にしました。
そこで大金持ちは、息子に言いつけました。
「すまんが、万さんに手紙を書いておくれ」
「はい。わたしに任せて下さい」
息子は手紙を書くことを引き受けると、自分の部屋に入っていきました。
ところが、いつまでたっても息子は部屋から出てきません。
「おい、そろそろ手紙は書けたか?」
大金持ちが部屋をのぞくと、息子は書きかけの手紙を指差して言いました。
「すみません、まだ時間がかかります。まだやっと五百まで書けたところです」
「五百?」
「はい。しかし万さんって、時間のかかる名前ですね」
大金持ちが息子の書いている手紙をのぞくと、何と息子は、『一』の字を何本も何本も書いていたのです。
おしまい