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2012年 10月26日の新作昔話

若返るのをあきらめたお母さん

若返るのをあきらめたお母さん
ハワイの昔話 → アメリカの情報

 ハワイの言い伝えでは、むかし人間は年を取ると、ヘビやトカゲの様にすっぽりと古い皮を脱いで若返る事が出来たそうです。

 ある日の事、一人のお母さんが、自分の顔を鏡で見てがっかりしました。
「まあ、わたしったら、いつの間にか、すっかりしわだらけだわ。前に若返ったのはずいぶんと前だから、もうそろそろ古い皮を脱いで若返らないと」
 お母さんは子どもたちが寝ているすきに、そっと川へ出かけていきました。
 そしてきれいな川に入って、服を脱ぐように全身の皮をすっぽりと脱ぎ捨てたのです。
 こうしてお母さんは、すっかり若返ってきれいな女の人になりました。
 お母さんの脱ぎ捨てた古い皮は川のくいに引っかかって、ゆらゆらと水に浮いています。
「ああ、さっぱりした。若返るって、本当に素晴らしい事だわ」
 若返ったお母さんは歌を口ずさみながら、子どもたちのいる家へ帰りました。

「子どもたち、ただいま。ほら、お母さん、とてもきれいになったでしょう」
 ところが子どもたちは、若返ったお母さんを見てびっくりです。
「あれ? 知らない人が来たよ」
「どこのお姉ちゃんだろう?」
 それを聞いたお母さんは、あわてて言いました。
「何を言っているの? 若返ったけど、お前たちのお母さんだよ」
 けれど子どもたちは、首を振って叫びました。
「違うよ! お母さんは、もっと年を取っていて、しわがいっぱいあるんだ」
「そうだよ。そんなにつるつるの肌のお姉ちゃんじゃない!」
 それを聞いていた末っ子が、泣き出しました。
「うええ〜ん、うええ〜ん。お母さんがいないよう。お母さんがぼくたちを捨てて、どこかへ行っちゃったよ」
「だから、わたしがお母さんだよ。お前たちを産んでからは始めてだけど、お母さんは古い皮脱いで若返ってきたんだってば」
 でも子どもたちは、信じようとはしません。
 いくら言っても、泣きわめくばかりです。
 すっかり困ってしまったお母さんは、家を飛び出すとさっきの川へと引き返しました。
「ええーと、わたしの古い皮、古い皮はどこだろう?」
 探してみると古い皮は、まだくいに引っかかったままでした。
「あったわ。一度脱いだ皮を再び着ると、もう二度と皮を脱ぐことは出来ない。・・・でも、あの子たちに嫌われるよりましだわ」
 お母さんは川の中に入ると、古い皮を拾ってすっぽりと着込みました。
「さあ、これで子どもたちも、安心するでしょう」
 元の姿に戻ったお母さんが家に入って行くと、子どもたちがうれしそうにかけ寄って来ました。
「お帰りなさい、お母さん」
「お母さん、今までどこへ行っていたのさ」
「そうだよ。さっき変なお姉ちゃんがやって来て、自分の事をお母さんだなんて言うんだよ」
「そうなの。でも、安心しておくれ。お母さんは二度とどこへも行かないし、そのお姉ちゃんも二度と来ないからね」

 この時から人間は、皮を脱いで若返ることをやめたそうです。

おしまい

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