2012年 11月12日の新作昔話
大晦日の火
岡山県の民話
むかし、大晦日から元旦までは、火を絶やしてはいけないという習慣がありました。
そこで大晦日の晩には、大きなほだ木に火をつけて、いろりの灰の中に入れておき、正月になると、その火で雑煮を煮たりしたのです。
さて、ある家の主人が、下女に言いつけました。
「今日は大晦日だから、決して火を消してはいかんぞ」
そこで下女は、大きなほだ木をいろりの灰に入れました。
しかし、下女が早起きして、その火から雑煮を煮ようと灰をかきのけてみたところ、どういうわけか 火が消えていたのです。
「たっ、大変!」
この事が主人に知られれば、下女はひどく叱られるでしょう。
かといって、火を付けようにもこの時代は火打ち石しか無かったので、『カチカチ』と火打ち石を打てば、その音で主人にばれてしまいます。
そこで、どこかに火はないかと外に出てみると、ちょうど桶を背負った人がたいまつをともしていたのです。
下女はその人に駆け寄ると、頭を下げてお願いしました。
「まことにすみませんが 火をわけてもらえないでしょうか」
すると、その桶を持った人はにっこり笑って、
「いいとも。火ぐらい、いくらでもわけてあげよう。だが、わしは急な用事があるので、この桶を預かってはもらえんだろうか。正月が過ぎても取りに来なかったら、あんたにあげるから」
と、言うのです。
下女は、とにかく火が早く欲しかったので、その桶が何かも確かめずに言いました。
「はい、よろしゅうございます。それでは、その桶を納屋へ入れてくださいな」
こうして桶を納屋に入れさせると、もらったたいまつの火で雑煮を煮て、何とか火を消してしまったことを主人に知られずにすんだのです。
ところが、後から預かった桶を見に行ってびっくり。
なんとその桶は棺桶で、死んだ人を入れる桶だったのです。
「あわわわわ。お正月早々から、何て物を預かったのかしら!」
主人に相談しようにも、火を消したことがばれてしまうので相談出来ません。
「あの桶をかついでいた人が、もしかして人を殺したのかしら? でも、そんな悪い人には見えなかったし。とにかく、早く取りに来て」
しかし、一日待っても、二日待っても、あの人は棺桶を取りに来ませんでした。
そしてとうとう三日が過ぎて、お正月が終わってしまいました。
「あの人、お正月が過ぎても取りに来なかったら、これをわたしにあげると言っていたけど、こんな物をもらっても。・・・でも、もしかして死人が入っているのでは、ないのかも」
そこで下女は、怖々とその棺桶のふたを開けてみました。
すると中には、まばゆく光る小判がびっしりと詰まっていたのです。
「ああ、あの人、福の神だったんだわ」
こうして下女はそのお金で大金持ちになり、下女をやめて幸せに暮らしたのでした。
おしまい