2012年 11月23日の新作昔話
正念塚
三重県の民話
むかしむかし、正念さんという修行僧がいました。
その正念さんが初瀬街道(はせかいどう)の上田辺(かみたぬい)の茶屋(ちゃや:地名)にさしかかった時、長旅の疲れが出てきたのか、急に気を失って倒れてしまいました。
それを見つけた村人が、
「もし、大丈夫ですか?」
と、声をかけましたが、返事はありません。
「おーい、誰か手を貸してくれー!」
村人は倒れた正念さんを自分の家に連れて帰ると、手厚い看護をしました。
そのお陰で、正念さんはみるみる元気を取り戻したのです。
元気になった正念さんは、助けてくれたお礼をしようと思いましたが、貧乏な長旅だったので、お礼が出来ませんでした。
そこで正念さんは、初瀬街道を往き来する旅人たちの安全を祈って、人柱に立とうと決心したのです。
それを聞いた村人たちは、びっくりして正念さんを止めました。
「困っている人を助けるのは当然です。なにも、人柱にならなくても」
「そうですよ。お坊さまは、このまま旅を続けて下さい」
しかし正念さんの決心は固くて、誰にも止める事が出来ませんでした。
そして正念さんは自ら地面に穴を掘って、節を抜いた青竹をさし込み、地面の中で死ぬまでお経を唱え続けることにしたのです。
心配した村人たちが、竹筒から中の様子をうかがいますが、正念さんは休むことなく、ひたすらお経を唱え続けます。
そして数日が過ぎたある日、正念さんの念仏は止まってしまいました。
村人たちは正念さんの気高い死を語り続けるため、その場所に塚を築いて正念さんの供養をしたという事です。
おしまい