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2013年 2月4日の新作昔話

絵から抜け出した不動明王

絵から抜け出した不動明王

 むかしむかし、あるお寺に、絵の上手な小僧さんがいました。
 小僧さんは動物も風景も色々な絵を描きますが、中でも得意な絵は燃えさかる炎を背にした不動明王です。
 小僧さんは毎日毎日、お寺の仕事をさぼってでも絵を描いていたので、怒った和尚さんが絵を描く事を禁止してしまいました。
 それでも小僧さんは、和尚さんに隠れて絵を描き続けました。

 ある日の事、小僧さんが和尚さんに隠れて不動明王の絵を描いていると、突然和尚さんがやってきて言いました。
「小僧や、この荷物を町の彦右衛門さんのところに届けておくれ」
「あっ、はい」
 小僧さんは不動明王の絵をさっと布団部屋の布団の間に隠すと、和尚さんのお使いに出かけました。

 さて、しばらくして小僧さんがお使いから帰ってみると、何と布団部屋からもくもくと白い煙が出ているではありませんか。
「和尚さん! 大変です! 布団部屋が火事です!」
 小僧さんに言われて和尚さんが布団部屋にかけつけてみると、なんと小僧さんが描いた絵の中から不動明王が姿を現して、まっ赤な炎をあげながら怖い顔で立っているではありませんか。
「小僧! すぐに水をくんできなさい!」
 和尚さんは小僧さんに命令すると、不動明王に向かって懸命にお経を唱えました。
 すると不動明王はだんだん小さくなり、小僧さんが描いた絵の紙の中へと戻っていったのです。
「和尚さん! 水を持ってきました!」
 和尚さんは水の入ったおけを受け取ると、燃えるふとんに水をかけました。
 バシャー!
 ふとんの火が消え、小僧さんが描いた不動明王の絵も水でぐしゃぐしゃです。
「やれやれ、大事にならずにすんだわい」
 和尚さんはぐしゃぐしゃになった不動明王にもう一度お経を唱えると、小僧さんに言いました。
「絵に描いた不動明王が出てくるとは、まるで彫り物師の甚五郎だな。
 それほどに絵が好きで才能があるのなら、これからは好きなだけ絵の勉強をしなさい。
 お前なら絵の力で、人々に仏の道を伝える事が出来るかもしれないな」
「はい! ありがとうございます!」

 こうして絵の上手な小僧さんは、好きな絵を好きなだけ描く事が出来るようになりました。

おしまい

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