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2013年 2月11日の新作昔話

小さな犬

小さな犬

 むかしむかし、ある山の中の小さなお寺に、坊さんが一人で住んでいました。
 このお寺では、夏になると蚊やノミがたくさん出てくるので、どうにもねむることが出来ません。
 ところが、ある晩の事。
 夕食をすませた坊さんが、ぼんやり寝ころんでいると。
 ヒヒーン。
と、小さく馬のいななく声が聞こえてきたのです。
(はて? こんな山奥に馬がいるはずは)
 坊さんが寝ころんだまま見まわすと、いつの間にやら目の前に、小さな小さな馬がいたのです。
 その馬の上には、小指よりも小さな人間が乗っていました。
 大きさは小さいですが、狩りに出かける姿をした、立派な武士です。
 その肩には、小さなハエの様なものが、ちょこんと乗っていました。
(これは)
 よく見ると、何とそれは、一羽のタカでした。
 武士は馬の手綱を引いて、座敷の中を一回りすると、どこかへ手招きをしました。
 するとまた、一人の武士が馬に乗って現れたのです。
 この武士も同じように、狩りに出かける姿をしています。
 けれどこの武士はタカではなく、馬の後ろに、アリほどの大きさの小さな犬を一匹引き連れていました。
 二人の武士は、くるくると座敷の中を馬で走りまわり、そしてまわる度に、小さな馬に乗った武士が、どんどん増えていきました。
 その武士たちは、みんなタカや犬を連れています。
 やがて武士たちは、ついに何百人となりました。
 そして、最初に出てきた武士が手を高くあげると、耳に聞こえない声で、なにか命令をくだした様子です。
 すると何百というタカや犬が、いっせいに飛び出しました。
 タカは、ブンブンと飛んでいる蚊を見つけては、するどいかぎ爪で捕まえます。
 犬たちは小さな体でたたみのすき間にもぐり込むと、中にいたノミを追い立てて捕まえます。
 ブンブンと逃げる蚊、ピョンピョンと跳びはねるノミを相手に、タカと犬は大活躍です。
 その様子を、坊さんは寝たふりをしながら見ていました。
 やがて、あたりが静かになると、どこからともなく、黄色の衣と金の冠をかぶった立派な人が、小さな牛車に乗って現れました。
 その姿を見ると、何百人という武士たちは、一人残らずそのまわりに集まりました。
 そして、次々とあゆみ出ては、捕まえたノミや蚊を両手に高々と差し上げ、得意そうになにかをいっています。
 やがて立派な人は、牛車に乗ったまま空中へ舞い上がりました。
 すると、武士たちも馬にまたがり、牛車に続いて、あとからあとから空中に舞い上がり、やがて、どこかへ消えてしまったのです。
 みんなが行った後、坊さんはゆっくりと体を起こしました。
「何とも不思議な夢を見たものじゃ」
 坊さんは、てっきり夢を見ていたと思いましたが、不思議なことに、あれほどいた蚊やノミが一匹もいないのです。
「夢ではなかったのか? しかし、そんな事が? ・・・おや?」
 ふと足元を見た坊さんは、あの武士たちが連れていた小さな犬が一匹、取り残されているのを見つけました。
 坊さんは犬をつまみあげると、いつも使っているすずり箱の中に入れて、小さな犬を飼うことにしました。
 ところでこの犬は、ごはんをやっても、くんくんとにおいをかぐだけで、いっこうに食べようとしません。
 でも、ノミやシラミを見つけては、決して逃す事なく捕まえるので、この寺からは、ノミやシラミは一匹もいなくなったそうです。

おしまい

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