2013年 6月24日の新作昔話
紫井戸の片目ブナ 弘法話
愛媛県・松山市の民話
松山(まつやま)の城山近くにある町の庭先に、紫井戸(むらさきいど)と呼ばれる井戸があります。
井戸の水が醤油をつくる水に適していたところから、醤油のむらさきにちなんで紫井戸と名付けられました。
これは、その紫井戸に伝わるお話しです。
弘法大師が四国巡礼の旅で紫井戸の近くを通り過ぎようとすると、ある家の庭先で一人のおばあさんがフナを料理していました。
包丁で生きたまま片身をそがれたフナは、残った半身をピクピクと動かしながら悲しそうな目を大師に向けました。
(うむ。ここで出会ったのも何かの縁か)
大師はお金を取り出すと、おばあさんに言いました。
「その片身のフナを売ってくれませんか? 片身ではあるが生きたまま逃がしてやりたい」
「はあ? これを逃がす?」
おばあさんは首をかしげながらも、片身になったフナを大師に売ってやりました。
(このお坊さん、頭がおかしいのでは? 片身のフナを逃がしたところで、すぐに死んでしまうのに)
ところが不思議な事に、大師が片身のフナをそっと川へ逃がしてやると、片身になったフナは一生懸命に紫井戸につながる川を泳いでいきました。
そしてきれいな水の湧き出る紫井戸を自分のすみかにして、元気に子孫を残していったのです。
ある日の事、フナを大師に売ったおばあさんが紫井戸を覗いてみると、なんと井戸の中にいるフナは全部片目のフナだったそうです。
おしまい
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