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夏の怖い話し特集
2013年 8月5日の新作昔話


鬼女

鬼女

 むかしむかし、ある山里に、剣術に優れた侍がいました。

 ある秋の夕暮れ、侍が野原を散歩していると、近くにある大きな栗の木が風もないのにざわざわとゆれだしました。
「なんだ?」
 侍が栗の木を見上げると、木の枝には白髪をふりみだした足の異様に長いおばあさんが立っていたのです。
 そのおばあさんの頭からは二本のするどい角が生えていて、目はランランと金色に光っていました。
 おばあさんは侍を見ると、笑いながら言いました。
「ひひひひ。うまそうな人間だ」
「化け物め!」
 侍は腰に手をやりましたが、そこには刀がありません。
 ただの散歩だったので、刀は家に置いたままだったのです。
「ぬっ、ここは逃げるか」
 侍は走って屋敷に戻ると、刀を手にして息を整えました。
「あれが、鬼女というものだろうか?」
 その時、月明かりに照らされた鬼女の影がしょうじにうつりました。
(来たな!)
 侍が刀を抜いて身構えると、しょうじがすーっと開いて鬼女の影が忍び込んできました。
 その時、侍は首筋にチクリと痛みを感じましたが、そのまま鬼女の影に斬りかかりました。
「化け物め。えい!」
「ギャーッ!」
 鬼女の影は叫び声をあげて、部屋から逃げ出しました。
「おのれ! 逃がすかー!」
 侍はすぐに追いかけようとしましたが、不思議な事に体から力が抜けて、その場にばったりと倒れ込んでしまいました。

 翌朝、気がついた侍が廊下に出てみると、何と四尺(よんしゃく→約1.2メートル)もあるクモの足が一本落ちていたのです。
「そうか、あの足の長い鬼女の正体は、クモであったか。
 そして急に力が抜けたのは、クモの毒にやられたためか。
 ・・・昨夜は引き分けであったが、この次は負けぬぞ!」

 それから侍は、常に刀を持ち歩くようになりました。
 しかしあの鬼女は、二度と姿を現さなかったそうです。

おしまい

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