きょうの日本昔話
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8月5日の日本の昔話

ネズミの名作
イラスト sai-sai

ネズミの名作
吉四六(きっちょむ)さん

 むかしむかし、吉四六さんと言う、とてもゆかいな人がいました。

ネズミの名作

 この吉四六さんの村の庄屋(しょうや)さんときたら、大がつくほどの骨董(こっとう→価値のある古い美術品)好きです。

ネズミの名作

 古くて珍しい物は、どんな物でも集めて、人が来ると見せては自慢していました。

 ある日の夕方。
 吉四六さんが、庄屋さんの家へ来ると、

ネズミの名作

「おう、吉四六さんか。良い所へ来てくれた。お前に見せたい物がある」
「また、骨董ですか?」

ネズミの名作

「まあ、そんな顔をせんと、とにかく見てくれ。
 なにぶんにも、天下に二つとない立派な品じゃ」
 そう言って庄屋さんは床の間から、いかにも得意そうに黒光りのする小さな彫り物を持って来ました。

ネズミの名作

「庄屋さん。これはネズミの彫り物ですね」
「さよう。生きておって、今にもそこらを走りそうじゃろう。

ネズミの名作

 見事なもんじゃ、左甚五郎(ひだりじんごろう)はだしといわにゃなるまい。
 こんな名作を持っておる者は、日本広しといえど、わし一人じゃろう。ワッハハハハ」

ネズミの名作

 庄屋さんが、あんまり自慢するので、吉四六さんはつい、
「庄屋さん。実は、こんなネズミの彫り物なら、わたしの家にも名人の彫った物があります。

ネズミの名作

 その方が、ずっと良く出来ております」
と、言いました。
 庄屋さんは自慢の鼻をへし折られたので、すっかり機嫌を悪くして、

ネズミの名作

「お前なんぞの家に、そんな立派な物があってたまるかい!」
「いいえ、ありますとも。ちゃんとあります」
 吉四六さんも、こうなったら負けてはいません。

ネズミの名作

「わたしのは先祖代々の宝で、天下の名作です。
 庄屋さんのこんなネズミなんか、話になりません」
「なんじゃと!
 お前の家などに、そんな物があってたまるか!
 もしあるなら、わしに見せてみい。
 ここヘ持ってきて、見せてみい!」
「はーい、明日持って来ますよ」
「きっとだぞ!」
「ええ、きっと持って来ますとも」

ネズミの名作

 吉四六さんは家に帰りましたが、吉四六さんの家にはそんなネズミの彫り物などありません。
「これは、ちょいと困ったな。えーと、どうしようか。

ネズミの名作

 ・・・待てよ。うん、そうそう。これはうまくいきそうだ」

 ニヤリと笑った吉四六さんは奥の部屋に入ると、障子(しょうじ)を閉めきって、何かをコツコツ刻み始めました。

ネズミの名作

 実は自分で、ネズミの名作を作ろうというのです。
 夜通しかかって、朝日が部屋に差し込んできた頃、ようやく完成しました。

ネズミの名作

「出来た!

ネズミの名作

 これで、庄屋さんを負かす事が出来るぞ」
 吉四六さんは刻み上げたネズミを風呂敷に包むと、庄屋さんの家まで走って行きました。

「おはようございます、庄屋さん。これが昨日話した、わたしの家の宝物です。名作です」

ネズミの名作

と、風呂敷から、いかにも大事そうに彫り物を取り出して、

ネズミの名作

「どうです。このネズミこそ、本物そっくりでしょう」
と、一晩かかって彫り上げたネズミを、庄屋さんの前に差し出しました。

ネズミの名作

「・・・? 

ネズミの名作

 ぶぶぶーっ!」

ネズミの名作

 庄屋さんは、思わず吹き出しました。
「何を笑いなさる。
 このネズミに比べたら、庄屋さんのネズミなんぞは、恥ずかしゅうてそばヘも寄れません。
 はよう持って来て、比べてごらんなされ」
「何じゃと!」
 庄屋さんは、さっそく自分のネズミを持って来ました。
 比べてみるまでもありません。

ネズミの名作

 吉四六さんのネズミは、素人の一夜作り。
 庄屋さんのネズミは、名人の作品です。

ネズミの名作

 それでも吉四六さんは、自分のネズミの方が素晴らしいと褒めちぎりました。
「えーい。お前といくら言い合っても、話にならん。

ネズミの名作

 和尚(おしょう→)さんにでも、立ち会ってもらおう」
と、言うので、吉四六さんは、
「よろしい。立ち会ってもらいましょう。だけど、ちょっと待って下さいよ。

ネズミの名作

 ネズミを見分けるのなら、寺まで行かずとも、ほれ、そこにおるネコの方がよろしかろう」
「ネコ・・・?

ネズミの名作

 なるほど。では、ネコの飛びついた方が勝ちじゃ」
「はい。では、もしわたしの方に飛びついたら、庄屋さんのネズミは頂きますよ」
「おお、いいとも、いいとも」

ネズミの名作

と、言うわけで、二人のネズミを床の間に並べてネコを連れて来ると、これはビックリ。

ネズミの名作

 ネコはいちもくさんに、吉四六さんのネズミに飛びつきます。
「あっ!」
 庄屋さんが、ビックリするひまもありません。
 ネコはネズミをくわえたまま、素早く庭へ飛び降りて、どこかへ行ってしまいました。
「吉四六の勝ちじゃ!

ネズミの名作

 庄屋さん、約束通りこのネズミはいただきますよ」
 吉四六さんは床の間に残った庄屋さんのネズミをつかむと、家ヘ帰りました。
 そして、庄屋さんのネズミをつくづくとながめて、

ネズミの名作

「なるほど。こりゃ立派な彫り物じゃ。おかげで、家にも宝物が出来たわい」

ネズミの名作

 実は吉四六さんが一晩かかって作ったネズミは、ネコの大好物のカツオブシで作ったネズミだったのです。

おしまい

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