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2013年 10月28日の新作昔話

亡霊と食事をした墓堀

亡霊と食事をした墓堀
ドイツの昔話

 むかしむかし、ある町の墓堀が鼻歌交じりにお墓の穴を掘っていると、土の中から真っ白な骸骨が出てきました。
 男はシャベルで骸骨を突きながら、冗談のつもりで話しかけました。
「やあ、どうだい。今夜はおれの家へ来て、一緒に食事でもしないか?」
 すると驚いた事に、骸骨がしわがれ声を出して返事をしたのです。
「それはいいな。では、何時に行こうか?」
「ひぇっ! がっ、骸骨が、しゃ、しゃべった?」
 骸骨が、再びたずねます。
「それで、何時に行こうか?」
 墓堀はびっくりして、つい答えてしまいました。
「ひっ、七時だ」
「分かった。七時にまた会おう」

 仕事を終えた墓堀は、家に帰る途中で心配になってきました。
「死んだ人間を食事に呼ぶなんて、とんでもない約束をしたもんだ。
 でも、今さら断るわけにもいかないし。
 ・・・そうだ。教会に行って、どうしたらいいか牧師さんに相談してみよう」
 墓堀は教会に行くと、牧師さんに骸骨の事をくわしく話しました。
 話を聞いた牧師さんは、こう答えました。
「では、家に帰って夕ご飯の支度をしなさい。そして、神さまのおめぐみを書いた、ありがたい本を読んでいるように」

 墓堀は家へ帰ると、牧師さんに言われた通り夕ご飯の支度をして本を開いていました。
 やがて、七時になりました。
 コンコンコン
 入り口の戸をたたく音がします。
「とうとう、やって来たな」
 墓堀が戸を開けると、外には髪の毛を長くたらした、やせた男が立っていました。
 見た目は人間の様ですが、よく見ると体が半分透けています。
 このやせた男が、あの骸骨の亡霊です。
 墓堀は怖くてブルブル震えながらも、やせた男をテーブルに案内しました。
「さあ。遠慮なく食べてくれ」
 やせた男はだまったまま食事を食べ終わると、ていねいにお礼を言いました。
「結構な食事をありがとう。
 さて、今度はわたしがごちそうをする番だ。
 明日の夜七時、わたしの家に来るように。
 ああ、わたしの家は、お前さんと会った墓のすぐ近くさ。
 あの墓の所に立っていてくれれば、迎えに行くから」
「・・・あの、それが明日の晩は、その、都合が悪くて、だから、行かれそうもないんだけど」
 墓堀は一生懸命に断ろうとしましたが、やせた男は承知してくれません。
「いいな! 明日の夜七時だ!」
「でも・・・」
「いいな!」
「・・・はい」

 その夜、男は怖くて怖くて、一晩中眠ることが出来ません。
「そうだ。朝になったら、もう一度、牧師さんに相談してみよう」

 次の朝、墓堀から話を聞いた牧師さんは、しばらく考えてからこう言いました。
「招待を受けてしまったのだから、約束通り墓場に出かけなさい。
 なに、心配はいらないよ。
 わたしが亡霊の為に、お祈りをささげておくから」

 夜になると、墓堀は約束通り墓場にやってきました。
 ありがたい事に今夜は月が出ていたので、墓場が月明かりで明るく見えます
 墓石の間を歩いて行くと、すぐに昨日骸骨を見つけた墓のそばに出ました。
 その時、どこかで七時の鐘が鳴りました。
 するといきなり、
「やあ。よく来てくれたな」
と、あのしわがれ声がしました。
 ふりむくと、昨日のやせた男が立っていました。
「では、家へ案内しよう」
 墓堀がやせた男について行くと、くずれかかった石壁と木の扉が見えました。
「この向こうが、わたしたち亡霊の家だ」
 ギイッ
 やせた男が扉を開ける、中はがらんとした部屋です。
 その部屋を通って次の部屋に出ると、一人の女の人が大きなテーブルの上に見事な皿やグラスなどを並べていました。
「おや? まだ支度が出来ていないようだな。
 仕方がない、わたしも手伝うとしよう。
 すまないがしばらくの間、窓から庭でもながめていてくれないか」
 墓堀の男は言われた通り、窓の外を見ていました。
 すると窓のそばに立っているオリーブの木から、一枚の葉っぱがヒラヒラと落ちました。

 しばらくすると、やせた男がやって来て言いました。
「すまないが、まだ準備が終わらない。もう少しそこにいて、庭をながめていてくれ」
「おやすいご用です」
 墓堀が再び外を見ると、オリーブの木から、また一枚の葉っぱが落ちました。

 しばらくすると、やせた男がやって来て言いました。
「ようやく準備が整った。さあ、一緒に食べよう」

 テーブルの上には、立派なごちそうがずらりと並んでいます。
 生まれて初めて食べる様なごちそうばかりですが、墓堀は怖くて怖くて、何を食べても味が分かりません。
 そして食事が終わろうとする時、オリーブの木からもう一枚の葉っぱが落ちました。

 ごちそうを食べ終わった墓堀は、やせた男にお礼を言いました。
「素晴らしい食事を、どうもありがとう」
「気に入ってくれて良かった。長い間付き合わせて、すまなかったね」
 やせた男はそう言って墓堀を家の入り口まで案内すると、扉を開けてくれました。
 ギイッ
 亡霊の家から出た墓堀は、まぶしいお日さまの光にびっくりです。
「おかしいぞ。まだ夜のはずなのに」
 墓堀は不思議に思いながらも、墓場を抜けて町に出ました。
 ところが町の様子が、夕飯を食べに行く前とはすっかり変わっているのです。
 見た事もない建物が建っており、形の変わった服を着た人たちがぞろぞろ歩いていました。
「一体、ここはどこなんだろう? そうだ、教会へ行って牧師さんに会えば、何かわかるかも知れない」
 ところが教会も前とは違う建物で、教会の牧師さんは墓堀のぜんぜん知らない人でした。
 とりあえず墓堀は、牧師さんに言いました。
「亡霊の家へ夕ご飯をよばれて、たった今、帰って来ました」
 すると牧師さんははっとして、墓堀の顔を見つめました。
 牧師さんは教会の古い記録の中に出てくる、不思議な男の話を思い出したのです。
 その男は三百年も前に墓場から姿を消したきり、二度とこの世に現れなかったと書き残されていたのです。
(三百年前に墓場から消えたのは、この人に違いない)
 牧師さんは、その古い記録を探し出して、墓堀に読んで聞かせました。
 すると、恐ろしい事にが起こりました。
 牧師さんが記録を読んでいるうちに、墓堀の髪の毛がたちまち、まっ白になり、そして残らず抜け落ちてしまったのです。
 墓堀の体はだんだん小さく縮んでしまい、ついにミイラになるとそのままばったりと倒れて死んでしまいました。

 墓堀が亡霊の家ですごした時間は、三百年という長い年月だったのです。

おしまい

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