2月12日の世界の昔話
サルのきも
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むかしむかし、大きな川の中に、ワニの夫婦がすんでいました。
ワニの奥さんは体の具合が悪くて、食べ物がのどを通りません。
ワニのだんなが、心配して聞きました。
「何か、食べたい物はないかね? 何でも探してきてやるよ」
すると、ワニの奥さんはいいました。
「ひとつだけ、食べたい物があります。それは、サルの生きぎもです。うわさによれば、サルの生きぎもはどんな病気でもなおす力があるとか。それを食べれば、きっとよくなると思いますわ」
その川の向こう岸は、サル山でした。
たくさんのサルが木登りをしたり、枝にとびうつったりして遊んでいました。
ワニのだんなは何とかして、あの中の大きなサルの生きぎもを、奥さんに食べさせてやりたいと思いました。
そこで向こう岸へ泳いでいって、ひなたぼっこをしているようなふりをしました。
そして、サルに話しかけました。
「サルさん。川のあっち側にいってごらん。木の実がたくさんあるよ」
「ふーん。でも、どっち側だって同じさ」
サルは、興味がない様子です。
それでも、ワニはあきらめません。
せっせと、出かけていっては、
「サルさん、川のあっち側にいってごらん。バナナやマンゴーがたくさんあるよ」
と、くりかえしました。
そのうちにサルも、
「だけど、あっち側へは、どうやって渡るんだい?」
と、聞いてきたのです。
「それなら、ぼくの背中にお乗りよ。すぐ渡してあげるから」
ワニはこういって、背中をサルの方に向けました。
サルが背中にとびのると、ワニは川の中を泳いでいきました。
そして一番深いところへきたとき、とつぜん、ブクブクと水の中へもぐりはじめたのです。
「助けてくれえ! ワニさん、助けてよ!」
サルはワニの背中にしがみついて、泣きさけびました。
すると、ワニが言いました。
「サルさん。うそをいってすまなかった。じつは、家内が病気なんだ。サルの生きぎもを食べたら、なおるというものだから」
これを聞いてサルはビックリしましたが、ある作戦を思いついていいました。
「なんだ、それならそうと、早くいってくれればいいのに。実はきょう、きもを忘れてきちゃったんだよ。あれは、とても重いんでね。ふだんは木の枝にひっかけておくか、ほら穴にしまっておくんだよ」
それからサルは、ちょっと考えるふりをして言いました。
「どうしてもほしいなら、もう一度岸にもどしてくれないか? ついでだから、生きぎもを二つか三つ、取ってきてあげるよ」
ワニはこれを聞いて、サルをもとの岸辺におくりとどけてやりました。
サルは山にかけのぼると、やがてイチジクの実を二つとってきました。
「ワニさん。これがサルの生きぎもだよ。奥さんに、食べさせてやりなさいよ」
と、いって、ワニにわたしました。
「ほう、これがうわさのサルの生きぎもか。ありがとう」
ワニのだんなは喜んで、そのイチジクをうちへ持って帰りました。
「お前、ほら、サルの生きぎもだよ」
と、ワニのだんなは、奥さんにイチジクを見せました。
「まあ、はじめて見るけれど、これがうわさのサルの生きぎもね。本当に、とってもおいしそうだわ」
奥さんはさっそく、イチジクをペロリと食べました。
すると病気は、うそのようになおってしまったということです。
おしまい
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