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4月12日の世界の昔話

リップ、バン、ウィンクル

リップ、バン、ウィンクル
アメリカの昔話 → 国情報

 むかしむかし、アメリカのハドソン川の近くの村に、リップ・バン・ウィンクルという男がすんでいました。
 リップは、うちのしごとをするのが大きらいで、いつも村のなかをプラブラしていました。
 ですから、リップの家は村でいちばんびんぼうで、リップの息子や娘たちは、ボロボロの服をきていました。
 リップのおかみさんは、ひまさえあると、
「このなまけもの!」
と、リップをどなりつけていました。
 おかみさんにしかられると、リップはコソコソと家をにげだします。
 そして鉄砲(てっぽう)をかたにかつぎ、ウルフというイヌをつれて山へかりにでかけるのです。
 ある日、リップはウルフと山のなかをはしりまわっていましたが、いつのまにか、けわしい山にまよいこんでしまいました。
 リップとウルフは、草の生えた丘にこしをおろしてやすみました。
 まもなく、夕ぐれです。
 リップの村は、ずっととおくに小さくかすんで見えます。
 家ではおかみさんが、はらをたててまっていることでしょう。
 そのとき、だれもいない山の谷ぞこから、
「おーい。リップやーい」
と、よぶこえがしました。
 ききちがいかなと、リップが思ったとき、また谷ぞこから、
「おーい。リップやーい」
と、はっきりきこえてきました。
 谷を見おろすと、だれかがおもそうなものを背中にかついで、谷川をのぼっています。
 ウルフは、なぜかこわそうに、リップにからだをよせてきました。
 リップはしんせつな男でしたから、てつだってあげようと思って、谷をかけおりました。
 谷川をのぼっている人を見て、リップはビックリしました。
 白いあごひげを胸までたらした、リップの知らないおじいさんです。
 きている服もかわっていて、なんだか、むかしの人がきていた服のようです。
 おじいさんは、酒の大きなタルをかついでいました。
 リップがちかづくと、「いっしょにはこんでくれ」と、あいずをしました。
 おじいさんとリップは酒ダルをかついで、水がかれた谷川をのぼっていきました。
 しばらくすると、
 ゴロゴロゴロー!、
 カミナリの音が、ひびいてくるようになりました。
 まもなく谷川がゆきどまり、高いがけにかこまれた広場に出ました。
 二人は、そのなかへはいっていきました。
「あっ!」
 リップは、おどろきの声をあげました。
 広場では、おじいさんたちがおおぜいで、ボーリングをしてあそんでいます。
 カミナリの音と思ったのは、じつはボーリングのボールをころがす音だったのです。
 おじいさんたちはみんな、むかしの服をきて、こしには小刀(こがたな)をさしています。
 長い白いひげをたらし、はねかざりのついたぼうしや、とんがりぼうしをかぶった人もいました。
 みんなはボーリングをやめて、リップをジロリと見ました。
 みんな、死人のようにあおい顔ばかりです。
 リップはおそろしくなって、ガタガタとふるえました。
 いっしょに来たおじいさんは、酒ダルから大ビンに酒をつめかえました。
 そして酒をついでまわるようにと、リップにあいずをしました。
 リップがコップに酒をつぐと、みんなはだまったまま、ゴクンゴクンとのみほします。
 それからまた、ボーリングをはじめました。
 リップは酒が大好きだったので、おじいさんの目をぬすんでひと口のんでみました。
 するとその、おいしいこと。
 たちまち、二はい、三ばい、と、のんでいるうちに、よっぱらってしまいました。
 そしていつのまにか、ぐっすりと、ねむってしまったのです。
 朝になり、リップが目をさますと、あのおじいさんとはじめてあった丘の上でねていました。
「ウルフ、ウルフ」
 リップがイヌの名をよびましたが、どこからも出てきません。
 足もとに鉄砲がころがっていましたが、それはリップのあたらしい鉄砲ではなく、茶色にさびたボロボロの鉄砲でした。
「あのじいさんどもに、イヌと鉄砲を取られてしまった」
 腹を立てたリップは、きのうの広場へでかけることにしました。
「よいしょっ」
 立ちあがろうとしますと、からだのぐあいが悪いのか、力がぬけたような感じです。
(まだ、酒によっているのかな?)
 リップは、谷川へおりていきました。
 すると、どうでしょう。
 きのうまでかれていた谷川に、水がごうごうとながれており、谷川をのぼっていくことができません。
 とおまわりをして、なんとかリップは村へもどりましたが、じぶんの家がどこにあるのかわかりません。
 それというのも、たった一晩のあいだに家がものすごくたくさんふえて、村のようすが、すっかりかわっているのです。
 そのうえ、村にはリップが知っている人が一人もいません。
 なんとかして、やっとリップの家がみつかりました。
 けれども庭には草がボウボウとはえ、屋根も庭もこわれかけています。
(これはいったい、どうしたことだ? ・・・そうだ、家族たちはぶじか!)
 リップは家のなかへとびこみましたが、なかには、おかみさんも息子も娘も、だれもいません。
 リップは家をとびだし、村のなかをあるきまわりました。
 まもなくリップは、村の人びとにとりかこまれました。
 そしてその中の一人が、リップに聞きました。
「鉄砲などもって、どうしたのじゃ? おじいさん、あんたはどこのだれかね?」
「おじいさん? なにをいう。わたしはまだ、わかいですよ」
 リップがいうと、人びとはリップの胸のあたりをゆびさして、わらいあうのです。
 リップも、じぶんの胸を見ました。
 すると、どうでしょう。
 いつのまにか、長くて白いひげが胸までのびているではありませんか。
 何と、知らない間に、リップはおじいさんになっていたのです。
「そっ、そんな! ・・・だれか、だれかリップ・バン・ウィンクルを知っている人はいませんか?」
 リップはすっかりおどろいて、大声でさけびました。
 そのとき、わかい女が赤ん坊をだいてすすみでました。
「それはわたしの父です。二十年もまえ、山へいったまま、かえってきませんでした」
 リップは娘のところへかけよると、さけびました。
「わたしが、そのリップだよ!」
 リップは、人びとにきのうのできごとをはなしました。
 すると、ひとりの老人がいいました。
「おまえさんが出あったのは、むかしこのあたりを探検(たんけん)した、ハドソン船長たちのゆうれいにちがいない。二十年ごとにかならず見まわりにくるという、いいつたえがあるんじゃ」
「・・・そんな」
 おどろいたことに、リップがねむっているあいだに、二十年もたっていたのです。
 それからリップは娘の家にひきとられて、しあわせにくらしました。

おしまい

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