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7月20日の世界の昔話

勇気ある男

勇気ある男
ケニアの昔話ケニアの情報

 むかしむかし、ある大きな森のはずれに小さな村がありました。
 この村では小麦の取り入れが終わると、森の向こう側にある町まで小麦を粉にひいてもらいに出かけます。
 ですが、この森には恐ろしいヒョウが住んでいる為、これまでに何人もの村人が食べられていたのでした。

 さて、ある年の事、十二人の男たちが、それぞれに小麦の入った袋をかついで町へ出かけました。
 ヒョウに襲われない様にお互いに気をつけながら町へ行き、袋の小麦を粉にしてもらいました。
 そして十二人の男たちは、また粉の袋をかついで村へ戻っていきました。
 無事に森をくぐり抜けた時、先頭の男が言いました。
「やれやれ、ここまで来ればもう大丈夫だ。よし、十二人ちゃんといるか数えてみよう。一人、二人、三人、四人、・・・十人、十一人」
 先頭の男が一人一人数えてみると、なんと十一人しかいません。
「しまった! 一人足りないぞ」
「そんなはずはない」
 別の男も数えてみましたが、やっぱり十一人です。
 それと言うのも、実は二人とも、自分を数えるのを忘れていたからです。
 これではいくら数えても、一人足りないはずです。
 ですが、誰もその事に気付きません。
「どうしよう? きっと、誰か道に迷って、ヒョウに食われてしまったんだ」
 三番目の男が言いました。
「だから、ちゃんとみんな一緒に行こうと言ったのに」
 四番目の男が言いました。
「そうだよ。追いつくまで待ってあげれば、よかったのに」
 五番目の男が言いました。
「それにしても、おそろしく大きなヒョウだったよ」
 六番目の男が、前に一度だけ見たヒョウの事を思い出して言いました。
「そうさ。それに、すごいキバを持っていた」
 七番目の男が言いました。
「でも、あいつはすごいなあ。武器も持たないで、ヒョウと闘ったんだから」
 八番目の男が言いました。
「本当だ。たった一人で立ち向かっていったんだから、村一番の勇気ある男だよ」
 九番目の男が言いました。
「でも、いくら勇気のある男でも、ヒョウに食われてしまっては、どうにもならないよ」
 十番目の男が言いました。
「そうだな。それを奥さんに伝えるのはつらいなあ」
 十一番目の男が言いました。
「本当に、あいつは勇気があって、それに親切な男だった」
 十二番目の男が、しみじみと言いました。

 そして十二人の男たちは村に帰ると、涙を流しながら、いなくなった仲間の事を話しました。
 村人たちもびっくりして、大騒ぎになりました。
 するとその時、女の子が言いました。
「あら。でも小麦粉の袋は、ちゃんと十二個あるわよ」
 すると、村長さんが言いました。
「では、わしが人数を数えてやろう」
 村長さんは、十二人の男たちを一列に並べると、一人一人指をさして数えました。
「一人、二人、三人、四人、五人、六人、七人、八人、九人、十人、十一人、十二人。おおっ! いなくなった男が戻ってきたぞ」
 それを聞いて、みんなは口々に言いました。
「すごい! 一人でヒョウをやっつけてくるとは」
「そんな勇気のある男が、この村にいたなんて」
「村のほこりだ。お祝いをしよう」
 こうして村人たちはさっそくお祝いをして、この勇気ある男の話しを、いつまでも語り伝えたという事です。

おしまい

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