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5年生の日本昔話
あまのじゃくくらべ
むかしむかし、彦一(ひこいち)と言う、とてもかしこい子どもがいました。
彦一(ひこいち)の村には、金作(きんさく)という、つむじまがりのおじいさんがすんでいます。
人が山といえば、川というし、右といえば左といいます。
どうしようもなく、あまのじゃくで、がんこなおじいさんでした。
村の人たちは、すっかりこまりはてて、ある日、彦一(ひこいち)のところにやってきました。
「のう、彦一(ひこいち)。おまえさんのちえで、金作じいさんのつむじまがりを、なんとかなおしてくれないか」
彦一(ひこいち)は、ちょっと考えていましたが、
「わかった。おらにまかせておくれ」
と、ニッコリ笑ってこたえました。
あくる日、彦一(ひこいち)は、金作じいさんのところへやってきていいました。
「こんちは、金作じいさん。いい天気だね」
「おう彦一(ひこいち)か。なにが、いい天気なもんか。こんなに日ばかりてっていては、道がかわいて、ほこりがたってしょうがないわい。雨でもふりゃあいいんだ」
「あらら、さすがは、あまのじゃくで有名な金作じいさんだね」
彦一(ひこいち)は、ニヤニヤしながら、
「ねえ、じいさん。あしたからおれと、あまのじゃくくらべをしようじゃないか」
「なに、あまのじゃくくらべだと」
金作じいさんは、うれしそうに、彦一(ひこいち)の方を向きました。
「そうだよ。なにをいっても『うん』ってへんじをしないで、はんたいのことをいうのさ」
「アハハハハハッ。バカなやつじゃ。わしゃ、子どものころからのあまのじゃく。おまえがいくらとんち小僧(こぞう)といっても、あまのじゃくくらべで、わしにかなうわけがなかろう」
「さあね。かなうかかなわんか、あしたからくらべっこしよう」
「ようし。まけてなきべそかくな。わしにまけたら、もう、とんち小僧(こぞう)なんていわせんぞ」
「いいとも」
さて、あくる日のことです。
金作じいさんは、川へさかなをつりにいきました。
「ほう、きょうは、ようつれるわい」
すぐに、カゴにいっぱいのさかながつれました。
「ずいぶんつれたぞ。さて、帰るとしようか」
金作じいさんは、つりざおをしまうと、さかながいっぱい入ったカゴをぶらさげて、帰ろうとしました。
そこへ、彦一(ひこいち)がやってきて、
「やあ、じいさん、さかなつりかい?」
と、ききました。
『うん』と、こたえたら、あまのじゃくくらべにまけてしまいます。
そこでじいさんは、
「なあに。さかなをすてにきたのさ」
と、こたえて、さかなの入ったカゴを、ポンと投げすてました。
すると彦一(ひこいち)は、ニッコリ笑って、
「もったいない。すてたさかななら、おらがひろっていこう」
と、さかなのカゴをかついで、さっさといってしまいました。
「彦一(ひこいち)め! よくもやったな」
金作じいさんは、腹(はら)がたってなりません。
そのあくる日。
金作じいさんは、彦一(ひこいち)が、田んぼでイネかりをしているのをみつけました。
「しめたぞ。あのイネをとりあげてやろう」
金作じいさんは、ノコノコと彦一(ひこいち)のところへやってきて、
「おう、彦一(ひこいち)。イネかりか?」
と、声をかけました。
彦一(ひこいち)も、ここで『うん』と、いったらまけになるので、
「いいや、イネすてだよ」
と、こたえました。
それをきいて金作じいさんは、うれしそうにわらって、
「ほう、すてたイネなら、わしがひろっていこう」
と、彦一(ひこいち)がかったイネを、みんなかついで、村のほうへもっていってしまいました。
けれども彦一(ひこいち)は、平気な顔で、おじいさんのあとについて歩くのです。
そして、じぶんの家の前までくると、
「金作じいさん。おらのたんぼにイネをひろいにいったのかい?」
と、いいました。
金作じいさんはすかさず、
「いいや。イネかりにいったのさ」
と、こたえました。
「アハハハハハッ。かりたものなら、かえしておくれよ」
彦一(ひこいち)はそういって、イネをみんなとり返してしまいました。
金作じいさんは、彦一(ひこいち)のイネを、田んぼから家まではこんでやったようなものです。
さすがの金作じいさんも、これにはすっかりまいってしまいました。
「いやいや、おまえはたしかに、たいしたとんち小僧(こぞう)だ。この勝負は、わしの負けだ。もう、あまのじゃくはいわないことにするよ」
金作じいさんは、それからはすっかりすなおな、よいおじいさんになったということです。
おしまい