ふくむすめ童話集 > 小学生童話 > 6年生向け > 日本昔話 > 鉢(はち)かづき姫(ひめ)
6年生の日本昔話
鉢(はち)かづき姫(ひめ)
むかしむかし、河内の国(かわちのくに→大阪(おおさか))に、ひとりの大金持ちが住んでいました。
なに不自由ない暮(く)らしをしていましたが、子どもだけは、どうしてもさずかりません。
それで毎晩(まいばん)、長谷寺(はせでら)の観音様(かんのんさま)に手を合わせてお願いをするうちに、ようやく女の子が生まれました。
おかあさんに似た、美しい姫(ひめ)です。
ところが姫(ひめ)が十三になった年、おかあさんは重い病気にかかりました。
「わたしはまもなく遠い所へいきます。さあ、おかあさんのかたみに、これを頭にのせていなさい。きっと役にたちますからね」
そういって、重い箱を姫(ひめ)の頭の上にのせたばかりか、大きな木の鉢(はち)までかぶせました。
そして、おかあさんはなくなりました。
おとうさんは姫(ひめ)の頭の上の鉢(はち)を取ろうとしますが、どうしてもはずせません。
人びとは「鉢(はち)かづき」といって、姫(ひめ)をバカにしたり、いじめたりしました。
やがて、おとうさんに二度めの奥(おく)さんがやってきました。
新しいおかあさんは、鉢(はち)かづき姫(ひめ)にいじわるをしたり、かげ口をたたいたり、最後にはおとうさんをうまくだまして、鉢(はち)かづき姫(ひめ)を追い出してしまいました。
鉢(はち)かづき姫(ひめ)は泣きながら、大きな川のほとりにやってきました。
「どこへ行ってもいじめられるのなら、ひと思いにおかあさんのそばへいこう」
思いきって流れに飛びこみましたが、木の鉢(はち)のおかげで浮(う)きあがってしまいました。
死ぬことさえ、できないのです。
村の子どもたちが、鉢(はち)かづき姫(ひめ)に石を投げました。
「わーい。頭がおわん。からだが人間。おばけだあ」
ちょうどそのとき、この国の殿(との)さまで、山陰(さんいん)の中将(ちゅうじょう)という人が、家来を連れてそこを通りかかりました。
中将(ちゅうじょう)は、しんせつな人だったので、鉢(はち)かづきを家に連れて帰って、ふろたき女にすることにしました。
中将(ちゅうじょう)には、四人の男の子がいます。
上の三人は結婚(けっこん)していましたが、いちばん下の若君(わかぎみ)には、まだお嫁(よめ)さんがいませんでした。
心のやさしい若君(わかぎみ)は、鉢(はち)かづき姫(ひめ)が傷(きず)だらけの手で水を運んだり、おふろをたいたりするのを見てなぐさめました。
「しんぼうしなさい。きっと、よいことがあるからね」
鉢(はち)かづき姫(ひめ)は、どんなにうれしかったことでしょう。
それから、何日か過ぎました。
若君(わかぎみ)は、父親の前へ出ると、
「あの娘(むすめ)と結婚(けっこん)しようと思います。しんぼう強く、心のやさしいところが気にいりました」
と、いいました。
おとうさんの中将(ちゅうじょう)は、反対です。
「よし、では嫁(よめ)合わせをしよう。兄たちの嫁(よめ)と、あの鉢(はち)かづきを比べようではないか」
こうすれは、鉢(はち)かづき姫(ひめ)ははずかしくて、自分でどこかへ行ってしまうだろうと思ったのです。
さて、嫁(よめ)合わせの夜がきました。
鉢(はち)かづき姫(ひめ)は思わず手を合わせて、長谷寺のほうをおがみました。
そのときです。
今までどうしてもはずれなかった頭の木鉢(きばち)が、ポロリとはずれたのです。
鉢(はち)の下からは、かがやくばかりの姫(ひめ)が現れました。
そして鉢(はち)の中からは、金・銀・宝石(ほうせき)が、あとからあとからこぼれ出ました。
若君(わかぎみ)がいいました。
「さあ、美しい姫(ひめ)よ、嫁(よめ)合わせにいきましょう」
兄の三人の美しい嫁(よめ)さんたちは、着飾(きかざ)ってならんでいます。
そこへ鉢(はち)かづき姫(ひめ)が、ニコニコと笑いながら現れました。
まぶしいほどの美しさです。
おとうさんの中将(ちゅうじょう)は、姫(ひめ)の手をとって、自分の横にすわらせたほどでした。
それから若君(わかぎみ)と姫(ひめ)は、仲むつまじく暮(く)らし、ふたりの間には何人かの子どもも生まれました。
あるとき、長谷寺の観音さまにお参りをしたときのことです。
本堂の片(かた)すみで、みすぼらしい姿(すがた)のお坊(ぼう)さんに会いました。
「まあ、おとうさんではありませんか」
ふたりは抱(だ)きあって、再会を喜びました。
すっかり落ちぶれて、あたらしい奥(おく)さんにも見捨(みす)てられた父は、鉢(はち)かづき姫(ひめ)を追い出したことを後悔(こうかい)して、旅をしながら鉢(はち)かづき姫(ひめ)さがしていたのです。
おとうさんは鉢(はち)かづき姫(ひめ)のところにひきとられ、しあわせに暮(く)らしました。
おしまい