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6年生の江戸小話(えどこばなし)
無筆のねがい書
むかしむかし、
ひどい飢饉(ききん→農作物が不作で、食べ物に困(こま)ること)がありました。
百姓(ひゃくしょう)たちは、すっかりこまりはてて。
「こりゃあ、代官(だいかん→やくにん)さまに、ねがい書を書くベえよ。なんとしてでも、今年の年貢(ねんぐ→税金)は、かんベんしてもらわにゃあ」
と、いうことになりました。
ところが、だれひとり、字の書けるものがおりません。
「やれやれ、なさけない」
と、ため息をついておると、中のひとりが、
「よし。いい考えがある。わしにまかしときな」
と、胸(むね)をたたいてひきうけました。
代官さまが、ねがい書をうけとって、ひらいて見ると、
《一二三四五六七八九十三》
と、書いてある。
(はて、きみょうなねがい書もあるものじゃ)
と、あれこれ考えたが、いっこうにわかりません。
そこで、それを書いた百姓(ひゃくしょう)をよびだして、たずねました。
「これなるねがい書。まさしく、そのほうが書いたものか」
「ヘえ」
「まちがいはないな。では、そのほう、ねがいを、よみあげてみい」
「かしこまりました」
百姓(ひゃくしょう)は、ねがい書を手にすると、でっかい声で、
「一は、ひとつもうしあげます。二は、苦にがしく。三年このかた。四じょう(非常)なききんで、五こく(穀)も、六ろくみのらず。七(質)におくやら、八(はじ)をかくやら。九(食)わずに苦しむ。十か村の難儀(なんぎ)」
と、よみあげたのです。
代官は、
「なるほど、それでわかった。だが、おしまいに書いてある、三の字は、なんじゃ?」
「はい、三の字は、ねがい人の横川三蔵(よこがわさんぞう)にございます」
おしまい