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5年生の江戸小話(えどこばなし)
はやく走る
ひとりの男が、えらく知ったかぶりをして、いったそうです。
「そもそも、けものの中ではじゃ。爪(つめ)のわれておるものがはやい。たとえばじゃ。サイというやつ」
「あの、ウシのようで、鼻の頭に角(つの)のあるサイか?」
「さよう。そのサイは、爪(つめ)がわれておるので、とぶようにはやい」
「なるほど。それなら、ウマはどうした。あいつは、爪(つめ)がわれてもおらんのに、はやく走るぞ。さあ、どうした。どうした」
「いや、その、あっ、あれはだな、爪(つめ)がわれておらんからこそ、人間ものれる。もし、ウマの爪(つめ)がわれておってみろ。それこそたいへん。目にもとまらぬほどはやく走るので、とてもとても、人間がのれたもんではないわ」
「じゃあ、ウシはどうした。爪(つめ)がわれておるが、あいつは、おそいぞ。これ、どうした、どうした、いうてみい」
「うん、その、それ、それ。それじゃよ。ウシは、爪(つめ)がわれておるからこそ、歩けるんじゃ。あいつの爪(つめ)が、われておらにゃ、いやもう、のろくてのろくて、うごくどころでないわ」
おしまい