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6年生の日本民話
ツバメを愛した娘(むすめ)
千葉県の民話
むかしむかし、あるところに、なかなか子どもにめぐまれない夫婦がいました。
でもようやく、女の子がうまれたのです。
とても美人でかしこい、心のやさしい娘(むすめ)です。
この娘(むすめ)が、十三歳(13さい)になった春のことです。
遠い南からツバメがやってきて、家の軒下(のきした)に巣(す)をつくって三羽のヒナをうみました。
かわいいヒナや親鳥たちを、娘(むすめ)は毎日たのしみに見ていました。
ところがある日、親鳥が二羽とも近所のネコに食べられてしまったのです。
娘(むすめ)はとても悲しみましたが、三羽の子ツバメをカゴにいれて、育てることにしました。
一羽は死んでしまいましたが、残った二羽はぶじに育って、やがて飛ぶようになりました。
朝に娘(むすめ)がカゴの口をあけてやると、二羽のツバメは元気に空へ飛びたっていきます。
そして夕方になると、ちゃんと帰ってきて、カゴの中に入るのでした。
秋になってツバメたちが南へ帰るときになると、娘(むすめ)は二羽のツバメの足に、
「春になったら、また帰ってきてね」
と、目印(めじるし)の赤い糸をくくりつけました。
二羽のツバメは秋の空へ高く飛びあがって、娘(むすめ)のもとを去っていきました。
それからまもなくして、娘(むすめ)はかぜをこじらせて病気になってしまいました。
両親はいろいろな医師を連れてきましたが、そのかいもなく、娘(むすめ)は静かに息をひきとりました。
やがて、また春がやってきました。
ある日のこと、二羽のツバメが元気に鳴きながら、家へやってきました。
ツバメは娘(むすめ)の姿(すがた)をさがしているのか、家の中を飛びまわっています。
母親がふとツバメを見ると、娘(むすめ)が足にむすんだ赤い糸が見えました。
母親はこみあげてくるものをおさえながら、ツバメたちにいいました。
「あんたたちをかわいがって育ててくれた娘(むすめ)はね、このお正月に病気で死んでしまったのよ。もう、ここにはいないの。娘(むすめ)に会いたいなら、お寺の裏(うら)にあるお墓へ行きなさい。左のすみに新しいお墓があるから」
母親の言葉がわかったのか、ツバメはかなしそうに鳴くと、外へ飛びたっていきました。
ツバメが家にきた三日後は、娘(むすめ)の月の命日です。
両親は春の花を持って、娘(むすめ)のお墓へお参りにいきました。
「おや? あれはなんだろう?」
見ると、お墓の前に、足に赤い糸をつけた二羽のツバメが死んでいたのです。
「ツバメさえ、こんなにしたっていた娘(むすめ)なのに」
両親は二羽のツバメのなきがらを小箱にいれて、娘(むすめ)のお墓に一緒(いっしょ)にうめてやったという事です。
おしまい